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【アラスカの大地から】失って分かる太陽の力

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【アラスカの大地から】失って分かる太陽の力

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極寒の闇夜も、オーロラの彩りで神秘の楽園へと変わる=米アラスカ州(松本紀生さん撮影)  アラスカには太陽が沈まない時期がある。有名な白夜の季節だ。日中の気温は30度を超え、強烈な日差しが肌を焦がす。真夜中の太陽は実はかなり厄介で、体内時計は機能しなくなる。結果、寝不足の朦朧(もうろう)とした頭で曇天を待ち望むこととなる。太陽など沈んでしまえ、と毒づきながら。

 失って初めてその大切さに気づく、とはよく言われること。ただ頭では理解しているつもりでも、実際に体験してみないと本当の意味は分からない。僕にとっては太陽が教訓となった。

 真冬のアラスカ。場所によっては太陽がまったく昇らない地域もある。僕がかまくら生活をするマッキンリー山麓の場合、日照時間はわずか5時間ほど。朝10時半にようやく顔を出した太陽が、午後3時半にはもう姿を消してしまう。しかも太陽は低く山の端をなでるように移動するので、ごく弱い光が辺りを照らすのみである。

 同じ太陽であっても、夏のそれをガスバーナーに例えるならば、冬の日差しはせいぜい風にゆらぐロウソクといったところだ。

 ≪閉ざされた心 溶かす機上の陽光≫

 しかもこの日差しがキャンプ地までは届かないときている。かまくら生活をする場所は山々にがっちりと囲まれているため、日光がブロックされてしまうのだ。つまり、キャンプ中の約2カ月間、一切太陽を見ることなく過ごすのだ。

 これは精神的につらい。辺りの高峰が煌々(こうこう)と照らされているのを見るにつけ、この世で自分だけが開かずの冷凍庫に閉じ込められた気持ちになる。また実際にその通りの環境に身を置いているのだから、救いようがない。

 冬のアラスカでは鬱を発症する人が多いというが、それもこの日照不足が主な原因だ。治療には特別な室内ライトを使用するらしい。電源のない氷河の上では使える見込みはないだろうが。

 迎えのセスナ機上で浴びる日光に、全身が恍惚(こうこつ)感で満たされる。太陽のありがたみをこれほど実感できる体験も珍しいだろう。

 もう毒づいたりしません、と固く誓うのであるが、さて夏にも同じ思いでいられるのか。何でも適量がいいのであろうが、そうもいかないのが自然界なのである。(写真・文:写真家 松本紀生/SANKEI EXPRESS

 ■まつもと・のりお 写真家。1972年生まれ。愛媛県松山市在住。立命館大中退後、アラスカ大卒。独学で撮影技術やキャンプスキルを学ぶ。年の約半分をアラスカで過ごし、夏は北極圏や無人島、冬は氷河の上のかまくらでひとりで生活しながら、撮影活動に専念する。2004年夏、マッキンリー山登頂。著書に「オーロラの向こうに」「アラスカ無人島だより」(いずれも教育出版株式会社)。日本滞在中は全国の学校や病院などでスライドショー「アラスカ・フォトライブ」を開催。matsumotonorio.com

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