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「北極の首都」目指すムルマンスク

 地球温暖化による海氷減少に伴い、冷たい北極の海に世界が熱い視線を注いでいる。中でも資源開発や北極海航路の整備、軍事的存在感の確保へと、政権の号令で最も活発な動きを見せている沿岸国がロシアだ。北極圏では貴重な不凍港を擁する北西部のムルマンスク市(人口約30万人)を昨年(2013年)12月に訪れ、「北極の首都を目指す」との地元の意気込みを垣間見た。

 海氷減少で一躍脚光

 1月上旬までの約40日間は太陽が全く昇らず、日中の数時間だけ薄明が訪れる「極夜」のムルマンスク。かつて人々をこの地につなぎ止めていた“極地特典”の多くがソ連崩壊でなくなり、人口流出と経済低迷に悩んだ。それが一転、ムルマンスクが脚光を浴びるようになったのは、海氷減少で北極海の大陸棚開発や航行が比較的容易になったからにほかならない。

 ムルマンスク州のアレクセイ・チュカビン第1副知事(54)は「私たちには北極開発の戦略拠点になるとの明確な目標がある。北極海大陸棚での石油・天然ガス開発に関心が高まり、近年はロシアの大企業や合弁企業が次々やってきた」と力を込める。海運や造船、資材供給など大陸棚開発に関連する産業の裾野は広く、採掘が本格化した場合には地元経済への恩恵は大きいとチュカビン氏は語る。

 ペチョラ海のプリラズロムノエ油田では昨年(2013年)末に産出が始まり、ヤマル半島での液化天然ガス(LNG)事業も2016年の操業開始が有望視されている。バレンツ海では、露国営石油のロスネフチがすでに外資と組んでの探査事業に動き出した。

 北極海航路の「西玄関」

 ロシア沿岸の北極海を通り、アジアと欧州を最短距離で結ぶ北極海航路(北東航路)にも、地元の期待は大きい。北極海航路を完全横断した船舶は10年の4隻から11年に34隻、12年に46隻、13年に71隻と増加。航路の「西の玄関」にあたるムルマンスクは、貨物の積み替え拠点港や、航行船舶を先導する原子力砕氷船の母港としての発展を狙っている。

 世界唯一の原子力砕氷船団を運航する国営企業「ロスアトムフロート」のミハイル・ベルキン社長補佐(32)は「原子力によって何カ月も自立的に航行できるのがわが船団の強みだ」と指摘。北極海航路の利用が増えれば、航路の東端に位置する北海道・苫小牧港の飛躍にもつながり得るとも話した。

 むろん、北極に露政権や地元が思い描くようなバラ色の未来があるかは全くの未知数だ。資源開発の面では、海氷の減少にもかかわらず、まだ採算面の壁が高い。12年にはバレンツ海の巨大天然ガス田「シュトックマン」が開発凍結に追い込まれており、業界関係者は「北極海の資源開発では沿岸からの距離や国際資源価格の動向が成否を左右する」と指摘している。

 ロシア軍も本格始動

 北極海航路の現状も、「スエズ運河に匹敵する大動脈にする」というウラジーミル・プーチン大統領(61)のかけ声にはほど遠い。航路には、夏場の数カ月間しか航行できず、原子力砕氷船の利用でコスト高になるといった問題がある。沿岸のインフラ整備も急務だ。北極海航路の本格的発展は、北極圏からの資源輸出がどれだけ伸びるかにかかっているとの見方が強い。

 それでも、世界で未発見の石油の13%、天然ガスの30%が眠るとされる北極圏が可能性に満ちたフロンティア(未開拓の地)であることは疑いない。

 プーチン大統領は昨年(2013年)12月の国防省幹部会で「北極での安全と国益を守るにはあらゆる手段が必要だ」と述べ、この圏域での軍事力強化を急ぐ姿勢を鮮明にした。ヤマル半島のLNG事業に中国企業が参画を決めるなど、非沿岸諸国も北極圏への関心を強めていることへの警戒感からにほかならない。

 ロシアは昨年(2013年)9月、ソ連崩壊後に撤退した極東ノボシビルスク諸島の基地再建に着手しており、ムルマンスク州セベロモルスクを拠点とする北方艦隊と北極海を両にらみにする態勢を築く。国防省は今年を「北極の年」と宣言し、北極部隊の創設や沿岸各地での軍用空港整備に力を入れる方針だ。

 北極海でのロシア軍の機動力が高まれば、米国や日本の安全保障にも少なからぬ影響を及ぼすことが必至だ。(モスクワ支局 遠藤良介(えんどう・りょうすけ)/SANKEI EXPRESS

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