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経済
ベア温度差 「官製春闘」予断許さず 経団連と連合会談 論戦スタート
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談した連合の神津里季生(こうづ・りきお)事務局長(左)と経団連の米倉弘昌会長=2014年2月5日、東京都千代田区大手町(栗橋隆悦撮影) 経団連と連合の2月5日の会談で2014年春闘の論戦が本格化した。安倍政権がムードを主導し、労使とも賃上げの必要性を認め合う異例の展開に期待は高まるが、ベースアップ(ベア)をめぐり双方に温度差もある。地方の中小企業は「アベノミクス」による景気回復効果を実感できず、交渉の厳しさは強まると予想される。政権の仕掛ける「官製春闘」が功を奏するか予断を許さない。
「一時金も望ましいが、それよりベースアップが望ましい」。菅義偉(すが・よしひで)官房長官(65)は5日の記者会見で、まるで労働組合の代弁者のようにベアの重要性を説いてみせた。
安倍政権は企業への要請を繰り返し、昨年(2013年)末には経済界、労働界と意見交換する政労使会議で賃上げの必要性を盛り込んだ合意文書までまとめた。「こんな異様な雰囲気で春闘を迎えるのは初めて」と企業の幹部。政府の賃上げ要請に応えるのは「暗黙の了解」で、「ベアを実施しない選択肢はない」というわけだ。
企業によっては業績面からも、ベア実施の環境が整いつつある。トヨタ自動車は14年3月期連結決算で、営業利益が6年ぶりに過去最高更新の見通し。日立製作所も23年ぶりの営業最高益を見込む。両社は「業績が良ければ従業員に報酬という意味で還元するのは当然」とベアに前向きだ。
連合がベアにこだわるのは、従業員全体の賃金体系を底上げし賃金上昇を固定化するため。一時金(賞与)のように業績次第で減ることがないからだ。5日、経団連幹部らと向き合った連合の神津里季生事務局長はベアの意義を「あすへの信頼の証し」と表現した。
ただ大手電機メーカー幹部は「好業績だからすんなり満額回答といくかは分からない」と漏らす。牽引(けんいん)役の新興国経済は変調を来し、株安や為替相場の乱高下など動揺が収まらない。14年度以降の先行きに慎重な見方が広がる。
長いデフレと不況の間、企業は「賃金は個別企業の支払い能力に基づき決めるのが原則」との姿勢を崩さず、ベアどころか定期昇給維持が精いっぱいの春闘が続いた。
経団連は今回、春闘の指針で6年ぶりにベア容認姿勢を示した。しかし、人件費増の固定化に消極的な企業も多いため、ベアではなく一時金増額などで対応したいのが本音だ。「それぞれの企業が自らの事情にこだわると、日本経済全体の成長につながらない」と批判する連合側との温度差は解消されていない。
連合は4月の消費税増税など物価上昇が見込まれる中、「ベアを獲得するラストチャンス」(産別幹部)と意気込むが、長い“冬の時代”に染みついた企業の体質を変えるのは簡単ではない。
地方や中小企業ではさらに交渉の行方は不透明だ。石川県内の木材加工工場では12年ごろから受注が増え、工場はフル稼働。だが従業員でつくる労組役員は「全国で住宅が建て替え時期にあることが生産増の背景。アベノミクスは関係ない」と分析する。一方で円安のため原木や運送価格が高騰、価格転嫁も難しい状況だ。この役員は「そもそも業績の良い時でも会社側は出し渋ってきた。コスト増は会社側にとって、賃上げ抑制の理由になる」と強調する。
ただリーマン・ショック後の業績不振で、2度の賃金カットまで経験してきた組合員からは「今年こそ」と期待が大きいのは事実。労組役員は「せめて消費税増税分の3%を含めた賃上げを勝ち取りたい」と話した。
≪昨年の現金給与総額 過去最低水準の31万4150円≫
厚生労働省が2月5日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、ボーナスなど全ての給与を合わせた2013年の1人当たりの現金給与総額(月平均)は31万4150円で、現在の調査方法となった1990年以降で最低だった12年と同水準だった。
景気の回復傾向を受けて残業代やボーナスが増えた一方で、給与の低いパートタイム労働者の割合が増加して全体の水準を押し下げたため、総額は横ばいとなった。
就業形態別では、正社員などフルタイムで働く一般労働者は前年比0.7%増の40万4743円と2年ぶりに増加。これに対しパートは0.6%減の9万6630円と2年ぶりに減った。働く人全体に占めるパートの割合は0.6ポイント増の29.4%と過去最高を更新した。
全労働者の基本給などの所定内給与は0.6%減の24万1338円と8年連続で減少。ただ残業代などの所定外給与は1.8%増の1万9097円だった。ボーナスなど特別に支払われた給与も2.1%増の5万3715円で、2年ぶりに増加に転じた。給与総額が横ばいの中で物価が上がったため、物価変動の影響を考慮した「実質賃金」は前年比0.5%減と2年連続で下落した。
同時に発表した13年12月の現金給与総額は、冬のボーナスが伸びたことから前年同月比0.8%増の54万4836円と2カ月連続で増えた。所定内給与は0.2%減の24万1525円だった。
調査は従業員が5人以上の約3万3000事業所を対象に実施した。(SANKEI EXPRESS (動画))