ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
経済
政労使会議 官民協力で合意文書 デフレ脱却へ賃上げ明記 ベア焦点
更新
経済の好循環実現に向けた政労使会議であいさつする安倍晋三(しんぞう)首相(左)。右から古賀伸明連合会長、米倉弘昌経団連会長ら=2013年12月20日午後、首相官邸(酒巻俊介撮影) 政府は12月20日、経済界、労働界の代表と意見交換する「政労使会議」の第5回会合を官邸で開き、デフレ脱却と経済再生を確実にするために、デフレ脱却と経済の好循環実現に向け官民が一致協力する合意文書をまとめた。政労使が合意文書をまとめるのは異例。文書は「企業収益の拡大を賃金上昇や雇用拡大につなげる必要がある」とした。
会議で安倍晋三首相(59)は、「協力してデフレから脱却していこうと気持ちが1つになった。それぞれが、大胆に実行に移していただきたい」と強調した。
合意文書では、賃上げ、中小企業支援策、非正規雇用労働者の待遇改善、生産性の向上と人材育成の4分野で、政労使それぞれの取り組むべき方向性が盛り込まれた。
賃上げでは、「労働者の将来への安心感を醸成し、さまざまな対応を検討する」と明記。賃金は個別労使の交渉で決定するとしつつも、一時金ではなく、賃金体系全体を底上げするベースアップ(ベア)を求める内容とした。
中小企業支援策では、来年4月の消費税率引き上げ時に価格転嫁を阻害する行為を是正する施策や、賃上げに取り組む企業に対する支援強化を盛り込んだ。
非正規雇用労働者の処遇改善では、キャリアアップ助成金の拡充や企業側も職場のニーズに応じた多様な働き方を支援することを求めている。
政労使会議は20日の会合でいったん終了。今後は、賃上げの状況について、定期的なフォローアップを行い、公表するとしている。
≪デフレ脱却へ賃上げ明記 ベア焦点≫
政労使協議が12月20日まとめた合意文書に賃上げを促す必要性が明記されたことで、2014年春闘は給与全体を底上げするベアの実現が最大の焦点になる。
協議の合意を受け経団連の米倉弘昌会長(76)は「アベノミクスの成果を従業員に配分するよう企業に積極的に訴えていきたい」と述べ、賃金上昇に向けた取り組みを強化する考えを示した。経団連は来年1月上旬にまとめる、経営側の春闘指針となる経営労働政策委員会(経労委)報告にベアの“容認”を記す方針だ。
ただ、企業側はベア実施に慎重な見方を崩していない。ボーナスなどの一時金と違い、ベアは今後の人件費負担も増えるためだ。
円安で輸出企業の業績はおおむね好調だが、中小企業や零細企業は円安により上昇した原材料価格の転嫁が難しく、仕事は増えても利益は増えていない。企業や業種により、賃上げ余力には温度差がある。このため経団連は、経労委報告の原案で「賃上げとベアは同義語ではない」と労働側を牽制(けんせい)。その上で「賃上げは賃金、手当、賞与など年収ベースで見た報酬全体の引き上げととらえるべきだ」とした。また、年齢や勤続年数で自動的に給与が上がる定期昇給についても「仕事の役割や貢献度に応じて昇給を決める仕組みを」と見直しを訴えた。
デフレ脱却に向け、景気の好循環の実現に賃上げは不可欠だが、足並みはばらつきそうだ。
≪業績改善ばらつき 実現は不透明≫
2014年春闘で、相場をリードする産業別労働組合は、ベアに相当する賃金改善を統一要求する方針を相次いで決め、賃上げムードは高まる。ただ、経営状況は企業ごとに異なり、業績改善が遅れる中小企業なども目立つため、ベア実現には難航も予想される。
産業別労組では、自動車総連(組合員約76万人)や電機連合(約60万人)のほか、流通などの労組でつくる連合傘下最大のUAゼンセン(約145万人)などがベアを求める方針を打ち出している。また個別労組でも、業績が好調なトヨタ自動車グループ各社の労組で組織する全トヨタ労働組合連合会が、ベア要求の方針を固めた。
組合側は当初、労使交渉への政府の介入に警戒感も抱いた。しかし景気が持ち直し、今後は物価上昇も予想される中で、デフレ脱却を掲げる政府と歩調を合わせた格好だ。
ただ、連合の古賀伸明会長は「(ベア獲得は)厳しい交渉になる」と述べ、楽観論には否定的だ。一部の経営者からはベアに前向きな声が聞かれるものの、業績改善の度合いは企業や業界でばらつきがある。
自動車総連がベア要求で具体的な金額を設定しなかったのも「アベノミクスと浮かれているが、(経済効果は)全体に行き届いていない」(相原康伸会長)ためだ。電機業界では日立製作所が過去最高の営業利益見通しを示す一方、シャープは経営再建の途上にある。
円安は企業業績の追い風になっているとはいえ、燃料・原材料価格の高騰や新興国勢との競争激化など、経営環境は依然厳しい。賃上げの動きが産業界全体に広がるかは不透明だ。(SANKEI EXPRESS)