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社会
古墳で街を活性化 ~堺の取り組み~(下) 学んで好きになった 「魅力伝えたい」
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仁徳天皇陵前での定点ガイドの様子=2013(平成25)年10月18日、大阪府堺市(関西大学_有志学生記者撮影)
≪ガイドボランティアの坂東さん≫
古墳を街の活性化に役立てるには、市民の存在が欠かせない。「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」の世界遺産登録に向けて活動を行う市民は増えてきている。堺観光ボランティア協会で副理事長・案内所総括を務める坂東史朗さん(75)もその一人。仁徳天皇陵前でのガイド活動などを通じて、世界遺産登録に向けた市民の意識の変化を実感しているという。
「古墳は私たちのガイド活動の中心」と、坂東さんは言う。堺には社会人となり、仕事の都合で移り住んだ。そして、定年を迎えたとき、自分の住む街のことを全く知らないことに気付き、学び始めたという。そして、学んだことをたくさんの人に伝えたいという思いから、ボランティア活動を始めた。
協会には約200人の会員が所属。毎日交代で、市内の観光名所で定点ガイドを行ったり、堺市の観光を盛り上げるためのイベントを企画したりしている。
ガイドの拠点の一つである仁徳天皇陵前では、世界遺産登録を目指していることを積極的にPRしている。ガイドの際、坂東さんは「どちらから来られたのですか?」と必ず尋ねるようにしているのだが、最近、最も多い回答は何と「堺市」なのだという。自分の街の遺産に目を向け始める人が増えてきている証拠だ。
ただ、仁徳天皇陵やその他の古墳が密集しているエリアの住民は世界遺産登録への意識が高まってきているが、古墳のない地域の市民にはまだまだ広がっていないという。
「堺市を訪れる観光客に本当のおもてなしをするには、古墳のある地区の市民やボランティアだけではなく、堺市民全体の意識を高める必要がある。だから、堺市民全体で盛り上げていかないといけない」と、坂東さんは語る。
「自分の住む街のことを学び、堺のことがものすごく好きになった」と、笑顔で話す坂東さん。古墳群が世界遺産に登録されることで、堺市をより多くの人が訪れるようになり、ガイドとしてその魅力を伝えていきたいと意気込んでいる。
≪古墳シンガーのまりこふんさん≫
シンガー・ソングライターで古墳シンガーである、まりこふんさん。昨年(2013(平成25)年)、「古墳にコーフン協会」を設立し、古墳を多くの人に楽しんでもらうための活動を進めている。古墳の魅力や古墳の楽しみ方を聞いてみた。
古墳との出合いは、6年前に大阪を音楽の仕事で訪れ、「教科書で見た仁徳天皇陵に行ってみよう」と思い立ったのがきっかけだ。前方後円墳の鍵型の形がまったく確認できないほど広大で、博物館では世界一大きい陵墓だと知った。にもかかわらず、世界遺産どころか観光地にもなっていないことに衝撃を受けた。「みんなに古墳のことを知ってもらいたい! 古墳を守りたい!」という思いから古墳の曲を作り、古墳シンガーとして活動するようになった。古墳にコーフン協会では、会長として30人の会員とともに、全国の古墳情報の発信などの活動を行っている。
古墳の楽しみ方はいろいろ。内部に入れる古墳は、五感で楽しみ、仁徳天皇陵のように中に入れない古墳でも、上空から見た古墳の形を想像しながら周囲を歩けば十分に楽しめる。
また、協会で「野良古墳」と呼ぶ、地図に載っていない古墳を探し当てる楽しみ方もある。古墳探索中に、その地域ならではの食べ物や風物に出合えるのも魅力だという。
古墳は見晴らしの良い所にあり、自然が豊かということもあって、単純に気持ちがいい。古墳に登り、そこから見える山々を眺めながら、「古代人もこんな景色を見ていたのかな」と、まりこふんさんは古代に思いをはせるそうだ。
多くの人に古墳に興味を持ってもらうため、まりこふんさんは古墳ソングを歌い続ける。(今週のリポーター:関西大学 有志学生記者/SANKEI EXPRESS)
■必要なのは「地元を愛し誇りに思う心」
「大阪初の世界遺産を」というスローガンのもとで進められている堺市の街づくり。全国の人たちに「百舌鳥・古市古墳群」を知ってもらいたいという行政や市民の活動を取材し、「古墳を街の活性化につなげよう」という熱い思いを感じた。解決していかなければならない問題もあるが、市民が一体となり熱意を持って、世界遺産登録のための活動を進めることによって、堺市は今まで以上に盛り上がっていくことだろう。「百舌鳥・古市古墳群」は、堺市民にとってはもちろん、日本国民にとっても誇るべき、そして未来へ残していくべき大切な遺産であることは間違いないが、世界遺産への登録を実現するには、より多くの堺市民がその魅力に気づき、意識を高めていく必要がある。
そして、私たちも自分たちが住む街に改めて目を向けてみよう。そうすることで、今まで知らなかった魅力を見つけることができるかもしれない。自分が住む街に愛着を持って、その魅力を「広く伝えたい」と思う心が街を生き生きとさせる。「地元を愛し誇りに思う心」こそが、街の活性化には必要なのだと感じた。
関西大学 有志学生記者
<取材・記事・写真> 齋藤奈月、福井俊弥、山村周平、塩見明菜