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「なにわの伝統野菜」復活(下) 収穫の喜び 次代へ伝えていく
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慣れた様子で畝を作る「楽畑(らくはた)」の橋爪秀博さん=2013(平成25)年10月12日、大阪府堺市(関西大学_有志学生記者撮影)
「子供の頃、お正月に吹田慈姑(すいたくわい)を食べないと、お年玉をもらえなかった。だから、これを見るとお年玉が頭に浮かぶ。当時はあまり好きじゃなかったが、今となってはいい思い出です。今の子供たちにも味わってもらいたい」。大阪府の吹田市地域経済振興室に勤める榊弘次さんはこう語る。
吹田慈姑は、吹田市のマスコットキャラクターすいたんのモチーフにもなっており、市も積極的にPRしているが、あまり作られなくなっている。
最大の理由は栽培の難しさ。吹田慈姑は天候の影響を受けやすいうえ、繊細で除草剤をまくと雑草よりも先に枯れてしまうため、手で雑草を抜かなければならない。しかも、収穫は1年に1度だけというのもネックとなっている。このため、生産農家の後継者が不足している。
榊さんは「できるだけ早く栽培指針を作り、商品として安定して供給できるようにする必要がある」と、課題を挙げる。
吹田慈姑を次世代に伝える取り組みも進んでいる。地元の北山田小学校と山手小学校では、吹田慈姑を栽培し、収穫して料理するまでを授業として取り入れている。「吹田慈姑を育てるにはたくさんの水が必要で難しい。農作物を作ることは、簡単ではなく奥深いということも学んでもらいたい」と、榊さんは話している。
「なにわの伝統野菜」を生かした新しい名物も生まれている。大阪市阿倍野区の豊下製菓は「なにわの伝統飴(あめ)野菜」を製造している。もともと大阪は飴づくりが盛んで、豊下製菓も明治5年創業の老舗。まさに伝統の野菜と飴のコラボレーションだ。
飴作りは、豊下正良社長が2000年に開催された伝統野菜の収穫イベントに参加したのがきっかけ。幼い頃に食べていた天王寺蕪(かぶら)を再び食べ、飴に使ってみようと試作を開始。02年には田辺大根、勝間南瓜(こつまなんきん)など7種類の伝統野菜を使った「なにわの伝統飴野菜」を発売し、現在は9種類まで増えた。
飴は一つ一つ手作り。野菜の汁を搾り、砂糖と水飴を煮詰めたものに加える。味はもちろん、色や形も伝統野菜そのものに見えるよう細工されている。「飴づくりが伝統野菜復活の支えになれば」と、豊下社長。
飴だけでなく、勝間南瓜のもなかや毛馬胡瓜(けまきゅうり)のゼリーも売り出した。お菓子に生まれ変わった伝統野菜を味わってほしい。
市民の力で伝統野菜の栽培を広めようと活動している人たちもいる。伝統野菜プロジェクト「楽畑(らくはた)」だ。大阪府堺市にある文化財「兒山(こやま)家住宅」と周辺の田園風景の保全と伝統野菜の普及を目的に活動している。「昔からの風景を残そうとしているのだから、どうせなら伝統野菜を育てよう」と、毛馬胡瓜の栽培を始めた。現在栽培している伝統野菜は10種を超えた。収穫した野菜は、集会の時に皆で食べる以外にも、干し野菜や野菜飴に加工して地域のイベントで販売しPR活動にも取り組んでいる。
栽培リーダーを務める橋爪秀博さんは、週末は必ず活動に参加している。「畑は、無農薬で有機肥料を使っているので害虫も多い。ひどい時には一晩でほとんどの葉が食べられてしまうので、スポイトに似た害虫駆除の道具を自作した」と楽しそうに話す。
伝統野菜は、種が市販されていないので自分たちの畑から採取しなければならない。副代表の石川育子さんは、「最初のころは種の中身が詰まっていなくて、水に入れると浮かんできた。何度も栽培を繰り返すうちに、底に沈んでいく種を見た時は本当にうれしかった」と、笑顔で話してくれた。
活動の課題は、若い参加者が少ないこと。若い人たちに興味をもってもらおうと、婚活サークルとのコラボなども行っている。石川さんは「いろいろな人と伝統野菜を収穫する喜びを味わいたい」と、参加を呼びかけている。
伝統野菜を次代へと受け継いでいく活動が広がっている。(今週のリポーター:関西大学 有志学生記者/SANKEI EXPRESS)
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関西大学 有志学生記者
<取材・記事・写真>
奥中一哉、林大輝、脇本真希、平林芙美