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【ボクシング】WBCダブル世界戦 左よし右よし 新王者の「拳」

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【ボクシング】WBCダブル世界戦 左よし右よし 新王者の「拳」

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 「左を制する者は世界を制す」とは、よく言ったものだと思う。4月6日、東京・大田区総合体育館で行われたWBC世界ライトフライ級タイトル戦でメキシコのアドリアン・エルナンデスからベルトを奪取した20歳の井上尚弥(大橋)は、わずかプロ6戦目で世界王者になってしまった。

 これほど多彩で速く強い左の連打の数々を、誰に例えたらいいのだろう。連想したのは「怪物」のニックネーム通り、マイク・タイソンの左だった。晩年の野獣ぶりばかりが印象に強いが、カス・ダマトに育てられた若きタイソンの左は、まさに速く美しく、強烈だった。単にリードブローとするだけではなく、時にはダブルで、外からテンプル(こめかみ)を打ち抜いた左の拳が、目にも止まらず、次の瞬間には下からチン(あご)を突き上げた。

 井上の左のダブルには、それを思いださせる迫力があった。しかも序盤、左のストレート、フック、アッパーが王者エルナンデスの右脇腹を集中的に襲った。よほど嫌だったのだろう。右の腰を引き、ガードを下げ、がら空きになった左目の上を井上の右フックが襲い、顔面に亀裂が走った。野球に例えることが正しいかどうか。打者エルナンデスにとってみれば、外角低めに正確にあらゆる球種を集められ、内角高めの剛球で仕留められたようなものだ。

 3Rに左太ももの裏がけいれんすると、臨機応変、足を止めて打ち合いに誘い込み、勝ちきってしまうのだから、恐ろしいばかりの20歳である。左よし、右よし、頭よしで、どうやら死角らしきものが見当たらない。しかし、アマで高校7冠の実績があるとはいえ、4戦目で日本王者、5戦目で東洋太平洋王者、6戦目で世界王者という、あまりの順風満帆ぶりに落とし穴はないのか。ちなみに日本初の世界王者、白井義男は44戦目、19歳で戴冠のファイティング原田でさえ28戦目だった。

 階級も団体も少なかった昔と比べることに意味はないのかもしれないが、オールドファンなら嫌みの一つもいいたくなるところだろう。

 だが、単純にボクシングをみる限り、この20歳の若者には明るい前途しかないようなのだ。彼には国内外の強豪と、次々に拳を交えてほしい。

 ≪「肉を切らせて骨を断つ」 31歳、接近戦制す≫

 井上を評する格言が「左を制する者…」なら、八重樫東(あきら、大橋)のそれは「肉を切らせて骨を断つ」だろう。

 31歳の苦労人、元WBAミニマム級世界王者だが、2012年6月に井岡一翔(かずと、井岡)との2団体統一戦で敗れ、昨年(2013年)4月にWBCフライ級で2階級制覇を果たした。ジムの後輩、井上にメーンイベントを譲ってこの日が3度目の防衛戦。ミニマムから数えて実に7度目の世界戦でもあった。

 井上が天才、華麗、派手であるなら、八重樫のボクシングは不器用、地味であるかもしれない。だがパンチを当てるために相手に近づく勇気がある。この日も序盤は挑戦者のオディロン・サレタにポイントを奪われながら、前へ前へと出続けた。

 自らの腫れた顔面は、敵に手を出させるために差し出した果実のようでもあった。打たれる、前に出る、打たせる。そして打つ。その繰り返しだ。さすがに試合巧者のサレタも根負けした。9回に八重樫の左フックがカウンターでサレタのアゴをとらえると、連打から右のアッパーでリングに沈めた。

 ハプニングは、試合後だった。この日、ノンタイトル戦でフィリピン選手を3回TKOで破った「軽量級世界最強」ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)がリングに上がり、八重樫の左手を挙げたのだ。対戦をアピールするゴンサレスに、防衛を果たした八重樫も周囲に「やってもいいですか」。

 ファンは略称で畏敬を込めて「ロマゴン」と呼ぶ。アマ87戦87勝、プロ39戦全勝(33KO)。ミニマム、ライトフライで世界2階級を制覇し、今年1月、フライ級に転向した。09年7月、WBAミニマム級防衛戦で高山勝成(真正-現仲里、現IBFミニマム級王者)を下して以降、日本人選手との対戦はない。強すぎるからだ、と誰もが言う。

 そのロマゴンと、八重樫は「やる」と宣言した。フライ級には井岡も転向を宣言したばかり。井上もライトフライへの減量は限界が近づいているという。この4人を軸に、群雄割拠の伝統階級がにぎやかになりそうだ。(EX編集部/撮影:今野顕、AP、ロイター/SANKEI EXPRESS

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