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科学
運動のエピジェネティック効果 大和田潔
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記憶には、脳の内側にある海馬(かいば)という場所が深く関わっていることが知られています。海馬は、ギリシャ神話の海の神ポセイドンがまたがる架空の動物です。頭や胴体は馬ですが、尻尾の方が魚になっています。その尾の形に似ているところから海馬と名付けられました。
タツノオトシゴも海馬とよばれますが、ギリシャ神話の架空の動物が名前の起源のようです。人間ではCの形を横に引き延ばしたような形をした4センチほどの小さな領域です。記銘力障害が主な症状のアルツハイマー型認知症が進行すると、海馬が萎縮することが知られています。
30代、40代にさしかかると少し前のやるべきことを思い出しにくくなったり、久しぶりにお会いした方の名前を思い出しにくくなったりします。記憶力に陰りが見えてくると少し焦ってきて、海馬の能力の低下を最小限にしたいという願いも強くなります。以前、魚のω(オメガ)3脂肪酸やDHAが神経幹細胞から神経細胞への分化誘導を促し、神経幹細胞自体の細胞死抑制効果があることをお書きしました。
最近、カナダから有酸素運動を行った人の方が、海馬の大きさが維持されていたという報告がなされました。また、アルツハイマー型認知症のモデルマウスに運動をさせると脳の障害が少なくなることがスペインから、ある程度の強度をもった有酸素運動が、アルツハイマー型認知症を発症した方の生活を改善させることがデンマークから報告されています。
さらに面白いことに運動は、エピジェネティック的に認知症改善に役に立つかもしれません。普通、親が後天的に獲得した能力は子供には遺伝しませんが、親の代に獲得された特徴が遺伝子に刻まれ、子供に伝わることをエピジェネティックと呼びます。
不思議なことにマウスでは、運動によって変化した海馬の遺伝情報が子供に伝わるという報告がなされました。年をとってから慌てるよりも、若い時から運動する習慣を持つことは、やがてやってくる自分の子供の脳を守るかもしれません。
運動していたことが、自分だけではなく、子供のためになるなんてワクワクするお話です。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS)