SankeiBiz for mobile

【Q&A】取り調べ可視化 「全て対象」求める委員 警察と対立

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの社会

【Q&A】取り調べ可視化 「全て対象」求める委員 警察と対立

更新

検察が行った可視化の模擬取り調べ=2008年3月21日、東京都千代田区霞が関の検察合同庁舎(小野淳一撮影)  法務省が取り調べの録音・録画(可視化)の法制化に向けた試案を法制審議会の特別部会に提示しました。来年の通常国会に関連法案を提出したい考えですが、部会での意見対立は続き調整は難航しています。

 Q 可視化とは何ですか

 A 警察や検察が逮捕した容疑者に自白を強要していないか確認したり、裁判で供述の任意性を立証したりするため、取り調べの状況を音声と映像で記録することです。

 Q 可視化するようになったきっかけは

 A 2009年に導入された裁判員制度です。供述の任意性が争われて裁判が長期化し、裁判員の拘束期間が長くなるのを防ぐため、検察が06年に一部の事件で試行を始めました。

 Q 特別部会とは

 A 法務大臣の諮問機関である法制審議会が11年6月、捜査や公判の改革を議論するために設置しました。委員は法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)や警察幹部、学者のほか、厚生労働省の村木厚子事務次官、冤罪(えんざい)をテーマにした作品がある映画監督の周防正行さんらです。

 Q どうして設置されたのですか

 A 村木次官が逮捕され、後に無罪となった厚労省文書偽造事件で大阪地検特捜部の検事が証拠を改竄(かいざん)し、上司2人が隠していたことが発覚しました。事件後に設置された検察の在り方を検討する有識者会議が取り調べに依存した捜査を見直すよう提言したためです。

 Q 議論の状況は

 A ポイントは(1)取り調べの全過程を可視化するか一部の場面に限定するか(2)全事件を対象にするか裁判員制度対象事件に絞るか(3)どのような例外規定を設けるか-の3つです。可視化の範囲をなるべく狭くしたい捜査当局と、全事件、全過程での実施を求める村木さんらとの溝は埋まっていません。

 Q 法務省試案の内容は

 A 全過程の可視化を義務付けましたが、十分な供述が得られないときは除外できる例外規定があり、拡大解釈される恐れがあります。対象は裁判員制度対象事件に限定するA案と、A案に全事件の検察の取り調べを加えたB案が併記されています。

 Q 試案に対する委員の意見は

 A 警察は「例外規定が不十分なため賛同できない」と主張し、弁護士らは将来的には全事件を対象にすると明示するよう求めました。

 Q 今後の動きは

 A 法務省が試案を修正する予定です。部会でさらに議論を詰めて法制審議会が法務大臣に答申し、それを基に法務省が法案作成に着手します。

 ≪一定の制限は妥当≫

 ■元最高検検事の土本武司筑波大名誉教授(刑事法)の話 「取り調べの可視化が供述の任意性を立証するのに有効なことは最高検の検証でも明らかになっている。日本の刑事司法では取り調べが真相解明に重要な役割を果たしてきた。全てを可視化すると、その機能を損なう可能性があり、一定の制限を設けるのは妥当な判断だ。供述に代わる証拠を集めるために通信傍受の拡大など新たな捜査手法の導入を目指すのも合理的だ」

 ≪全事件、全課程が当然≫

 ■村井敏邦大阪学院大法科大学院教授(刑事法)の話 「大阪地検特捜部検事の証拠改竄事件が特別部会設置のきっかけとなった経緯を考えれば、全事件の取り調べで全過程を可視化するのが当然だ。ただ、いきなり全事件で始めるのが難しいというのなら段階的に拡大すべきだ。今回は対象事件を限定して法制化するとしても、全事件を対象にする時期を明記しないと国民の理解は得られないだろう」(SANKEI EXPRESS

 【法務省が示した2案の違い】

 ■裁判員裁判の対象事件

(A案)警察、検察の取り調べの全課程を可視化

(B案)警察、検察の取り調べの全課程を可視化

 ■その他の逮捕・勾留事件

(A案)可視化の対象外

(B案)検察の取り調べのみ全課程を可視化

 ■主な例外規定

(1)機材の故障

(2)容疑者の拒否

(3)容疑者の言動から十分な供述を得られないと判断したとき

(4)供述が明らかになれば容疑者や家族に危害が及ぶ恐れがあるとき

ランキング