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オバマ氏は「コメディアン・イン・チーフ」?
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米国のホワイトハウス記者会がワシントン市内で開いた毎年恒例の夕食会で、バラク・オバマ大統領(52)は上機嫌だった。
「保守主義者の人気の的はウラジーミル・プーチンをおいて他にない。(保守派論客の)パット・ブキャナンは去年、『プーチン露大統領はノーベル平和賞にまっしぐらだ』と言った」
登録サイトの不具合で批判された医療保険制度改革(オバマケア)をネタにする自虐ギャグはもちろん、保守系メディアをいじってみたり、今年11月の中間選挙や2016年大統領選への出馬が有力視される政治家を当てこすってみたりと、「軽口」は止まらなかった。
「コメディアン・イン・チーフ」。米紙はオバマ氏にこんな“称号”を贈った。もちろん、大統領が米軍の最高司令官(コマンダー・イン・チーフ)であることをもじったものである。
私事だが、5月1日付でワシントン支局に赴任した。
日本では、尖閣諸島(沖縄県石垣市)を含む東シナ海に防空識別圏を設定するなどの中国の軍事的野心を抑えきれない米国にいらだちを感じたものだ。しかし、ウクライナ危機に際しての対露制裁の効果を自信満々に説くオバマ大統領を見ていると、かつて「米国は世界の警察官ではない」と言ったことなど、つい忘れそうになる。
「もしロシアの指導者が進路を変えないのなら、孤立による代償がより高くつくことは明確だ。すでにルーブルは最低に近い水準に下がり、株価も急落してロシアの景気は後退した。信用格付けもジャンク級(投資不適格)寸前まで下がっている」
こう語るオバマ氏は、ロシアに「すでに弱い経済がさらに弱くなる」という圧力をかけようとしている。オバマ政権は、プーチン政権と関係の深い企業17社の資産凍結やロシア政府当局者7人の在米資産凍結などを決めたのに続き、エネルギー、金融、防衛などロシアの基幹産業を狙った追加制裁を検討中だ。
ロシアを兵糧攻めにすれば、ウクライナの東部や南部での親ロシア派武装集団による暴力行為は止まり、プーチン氏は「さらなる代償」の恐怖におののいて領土的野心を捨てる。そして、オバマ大統領は再びノーベル平和賞候補になる…。
と、ここまで書いてきて、あることに思い当たった。ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島はどこへ行ったのか?
ロシアとウクライナを、中国と日本に置き換えてみよう。
ある日、国籍不明の海上民兵が尖閣諸島を占拠し、中国が併合を決める。米政府の経済制裁で、中国は南西諸島の併合を断念。上機嫌のオバマ大統領はワシントンでの夕食会で「習近平国家主席はノーベル平和賞ものだ」とジョークを飛ばす。さて、尖閣はどこへ?
まさに、同じようなことがウクライナで進行している。
オバマ氏がアジア歴訪の最後の訪問先、フィリピンで行った発言が、米メディアから集中砲火を浴びている。「オバマ・ドクトリンとは何か」と聞かれ、オバマ氏はキレ気味で答えた。
「われわれの外交政策への典型的な批判は、軍事力の行使に失敗したというものだ。10年にもわたる戦争で莫大(ばくだい)な費用を払った後で、なぜ多くの人が軍事力を使いたがるのか。最高司令官としての私の仕事は、軍事力を最後の手段とし、賢明に展開することだ」
ワシントン・ポスト紙コラムニストのチャールズ・クラウトハマー氏は5月2日付の紙面で、オバマ氏の発言を「弁護的で、短気で、矛盾し、時に現実離れしている」と酷評。「外交的、経済的圧力でプーチン氏を止められると考えるなら思い違いだ。ウクライナ介入後、プーチン氏の人気は10ポイント上がり、オバマ氏の2倍になった」と指摘した。
冒頭で紹介した夕食会で、オバマ氏は次のように述べた。
「大統領としての私の仕事が一時的なものだとするメモをどこかで見たが、今から2016年までは長い。何が起こってもおかしくない」
中間選挙に向け、米国はより「内向き」になるとみられ、次期大統領選までの2年半は日本にとっても長い。オバマ氏にアジアの現実をどう分からせ、関与させることができるか。日本外交の腕の見せ所である。(ワシントン支局 加納宏幸/SANKEI EXPRESS)