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中絶規制が急増 中間選挙の争点に
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米国・首都ワシントン
41年前に妊娠中絶の合憲性が認められた米国の各州で、中絶に制限を加える規制が急増している。2011年以降の3年間で新たに発効した規制は205件で、過去のペースを大きく上回る水準。10年の中間選挙で保守層からの支持を受ける共和党が躍進したことで、規制拡大に弾みがついたとみられている。ただし厳格な中絶規制には合憲性などの面から反発も大きい。中絶の是非をめぐる世論は米国内を二分しており、中絶問題が11月の中間選挙の争点になるとの見方も出ている。
「命を守れ」「今すぐ中絶をやめよう」。1月22日、ワシントン市の連邦議会周辺で中絶に否定的な「プロ・ライフ」と呼ばれる立場を支持する数千人が大規模集会を開いた。集会に加わった共和党のラインス・プリーバス全国委員長(41)は米メディアに対し、「個人としても党としても生命尊重の意思を示すために参加した」とアピールした。
米国ではここ数年、中絶への規制を強める動きが続いている。非営利団体(NPO)「ガトマカー研究所」によると、米国内では13年、22州で70件の中絶規制が発効した。過去最高だった11年の92件に次ぐ件数で、35件以下で推移していた10年以前の水準から大きく伸びている。
規制内容は妊娠22週目以降の中絶禁止や医療保険の適用除外など。テキサス州で昨年(2013年)7月に決まった中絶措置を行う医療施設に大病院並みの設備基準を求める規制強化では、既存の施設の多くが閉鎖される事態も起きている。
規制強化の背景にあるのは10年の中間選挙で、保守層の支持を受ける共和党が躍進したことだ。知事が中絶反対を表明している州の数は21から29に増え、知事と議会の両方が中絶に反対する州の数も10から15に増えた。
こうした流れを受け共和党は改めて中絶反対の立場を強調し始めている。共和党全国委は1月24日、中絶問題への積極的な取り組みに関する決議文を採択し、「共和党は、これから生まれる生命のために誇りをもって立ち上がる」と宣言。「女性の権利を軽視している」との批判に対し、生命尊重の宗教・倫理的な観点から論戦に挑む考えだ。
米国では1973年1月、連邦最高裁判所がロー対ウェイド事件で、憲法は女性が中絶を選ぶ権利を認めていると判断した。それでも中絶の是非をめぐる議論が続いているのは、最高裁は胎児が母体の外でも生存可能とみなされる場合は、州が生命尊重の立場から中絶を禁じることができるとの見方も示しているからだ。
さらに胎児が母胎外で生存可能となる時期には解釈の余地が残されており、州によっては妊娠初期であっても中絶を規制しようとする動きがある。ノースダコタ州では2013年3月、妊娠6週目程度で行われる胎児の心音確認後の中絶を禁止する法律が成立。アーカンソー州でも同じ月に妊娠12週目を過ぎた後での中絶を禁止する法律が成立した。
ただし法律に基づいた中絶に肯定的な「プロ・チョイス」の立場からは、中絶規制の強化の流れが強まっていることへの批判の声も上がっている。ノースダコタ、アーカンソーの両州の法律では、成立後すぐに違憲訴訟が起こされて法律は差し止めになった。背景には、経済力が十分でない若い世代の女性が意図せずして妊娠した場合、女性自身が学校に通えなくなるなど教育の機会が閉ざされることへの懸念などがある。
ガトマカー研究所によると、米国では全ての妊娠のうち約半分が「意図していない妊娠」で、このうち4割程度で中絶が選択されている。中絶全体の2割弱は10代の女性によるものだという。
また、中絶全体の9割程度は妊娠12週までに行われ、21週以降の中絶は1%程度でしかない。プロ・チョイスの論者は中絶を禁止するよりも、性教育や避妊の普及に力を入れることで、意図していない妊娠を減らすことの重要性を訴えている。
米ギャラップ社が昨年(2013年)5月に行った世論調査では、プロ・ライフ支持者とプロ・チョイス支持者の割合は48%対45%と拮抗。米紙ニューヨーク・タイムズは「中絶が中間選挙での活発な争点になろうとしている」と指摘している。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)