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被災地ごとのニーズに応じ融資 「わがまち基金」 地元信金とタッグ
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「紬(つむぎ)」の代表取締役、桑原憂貴さん(左)と岩手県陸前高田市の製材業者。桑原さんは足しげく通い協力を取り付けた(日本財団撮影)
「地域のあしたを、地域でつくり、地域でささえる」をキャッチコピーとして「わがまち基金」プロジェクトが2013年6月に始動した。このプロジェクトは、日本財団が信用金庫などの地域金融機関とタッグを組んでソーシャルビジネスやコミュニティービジネスといった社会に貢献する事業を支援するものだ。第1弾として西武信用金庫(東京都中野区)と連携し、都近隣の事業者やNPOに対して計11件、総額5150万円の融資(14年4月末現在)を行っている。また、13年12月からは、東日本大震災復興支援の一環として岩手、宮城、福島3県の5信用金庫ともプロジェクトを実施中だ。被災した中小零細企業を中心に、地元の復興を支える事業者や起業家に対して融資を受けた際の利子補給支援や創業支援助成などを行っている。
「起業した後、特に資金調達が大変だった」。こう話すのは、「紬(つむぎ)」の代表取締役、桑原憂貴さん(30)。震災後に岩手県陸前高田市を訪れたのがきっかけで、地元の気仙杉を使い、家具から家までを組み立てられる木材キットの販売会社を13年3月、市内で設立した。「陸前高田市で雇用を創出し、森林保全にもつながる会社を興したい」という思いから、地元の製材業者の理解と協力を得て起業したが、資金面では県内の銀行に融資を断られたことも。
被災した事業者を対象とした公的な支援制度はさまざまあったが、震災後に移り住んだ起業家をサポートする制度はごく限られている。桑原さんは、たまたま訪れた気仙沼信用金庫で、「わがまち基金」による融資を提案され、650万円の無利子融資が決まった。「この融資がきっかけで事業のスピードアップをすることができた」と桑原さん。陸前高田市の製材業者が一つ一つ手間暇をかけて加工した製品には気仙杉のぬくもりが残され、都内でも人気を呼んでいる。
今年5月1日に、宮城県石巻市でリハビリ特化型デイサービス「リハビリサロンPlace」をオープンした「夢工房」の代表取締役、佐藤裕之さん(40)も、石巻信用金庫の「わがまち基金」による利子補給と創業支援助成を活用して起業した一人である。「500万円の融資と180万円の創業支援助成がなければ、起業していなかったと思う」と、佐藤さんは振り返る。
宮城県女川町出身の佐藤さんは作業療法士として県外の医療介護施設で働いていたが、震災で女川町に住んでいた家族3人を失う。震災後、県外から仮設住宅を訪問する中で「自分の経験を地元で生かしたい」と決意し、石巻市内で通所型デイサービスセンターを開業することに。佐藤さんは「高齢者の中には仮設住宅や移転先の地域コミュニティーに溶け込めない人もいる。そういう人たちにもリハビリを通して、新たなコミュニティーに参加してほしい」と話す。石巻市では仮設住宅暮らしが長期化するなか、高齢者の健康管理が大きな問題となっている。地元のために戻ってきた佐藤さんは「いつか、生まれ故郷の女川町でもサービスを提供したい」と語る。
震災から3年がたったある日、被災者からこんな言葉を聞いた。「『被災地』と一言でひとくくりにされるけど、被災地という一つの地域があるわけではないんですよ…」。インフラや住宅の整備といった、大きな物差しで復興の進捗(しんちょく)が語られがちだが、状況は地域によってさまざまだ。同じ地域の中でも、事業規模は決して大きくないが地域やコミュニティー再生に必要な企業や団体で、まだ支援を必要としている場合もある。人間の体で例えると大動脈だけでなく、手足の毛細血管の隅々にまで血液が行き渡るように、中小零細企業や起業したばかりの事業者にまで資金が流れるようにすることが重要だ。
夢工房の融資を担当した石巻信用金庫新分野推進室の今野太喜さん(27)は「公的な補助金では、条件面などで借り手の意向に合わないこともある。今後も『わがまち基金』を活用し、被災した事業者や新規創業の支援に全力で取り組みたい」と話す。
14年3月末現在、「わがまち基金」プロジェクトとして被災地の沿岸地域で計304件、総額80億円の融資を実行しており、16年末までに、200億円近くの経済波及効果を見込んでいる。このプロジェクトが被災した地域ごとのニーズを満たし、やがて大きなうねりとなって地域を支えることを期待したい。(日本財団「わがまち基金」推進チーム 和田真/SANKEI EXPRESS)