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復興引っ張るリーダー育成 東北初の社会人向けMBAスクール

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復興引っ張るリーダー育成 東北初の社会人向けMBAスクール

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東日本大震災からの復興を引っぱるリーダーの育成を目的に設立された「グロービス経営大学院仙台校」では、実践的なプログラムが提供されている(日本財団撮影)  【ソーシャル・イノベーションの現場から】

 「私は“人材”という分野でリーダーシップを発揮していきたいと考えています。なぜなら、これからの被災地の課題の一つに“人材獲得”があり、自分のこれまでの企業の人材採用支援、学生の就職活動支援などの経験を生かしこの課題解決に取り組むと決めたからです」

 力強い言葉で始まる作文。東北初の社会人向けMBAスクール「グロービス経営大学院仙台校」の奨学生選考への応募者が書いたものだ。

 仙台校は、東日本大震災の復興を牽引(けんいん)できる次世代リーダーの育成を目指して設立された。学生は実践志向の経営学を日夜学んでいる。

 開校は2012年4月。震災前に予定されていた九州圏での開校に先駆け、震災後にわずか1年でスタートにこぎつけた。スピーディーな開校に合わせて、受講生の成長と挑戦を持続的に支援するため、日本財団と協議し、奨学基金「ダイムラー・日本財団イノベーティブリーダー基金」も設けられた。メルセデス・ベンツで知られる独ダイムラーが趣旨に賛同し資金を提供した。

 これまでに単科生と本科生あわせて計38人が、作文や面接などによる選考を経て奨学生となった。

 経営と貢献 両立追求

 震災前から産業の衰退が指摘されていた東北では、倒産や事業規模の縮小を余儀なくされた企業の再興にとどまらず、従来型のビジネスモデルや中央集中の経済構造を変革し、閉塞(へいそく)感を打破できる人材が強く求められている。

 仙台校の特徴は、独自の教育プログラム「東北ソーシャルベンチャープログラム」にある。被災地の復興を視野に入れ、事業経営と地域貢献の両立方法を追求するケーススタディーを提供するもので、奨学生は必須の受講科目だ。

 バングラデシュの素材でバックを製作する「マザーハウス」や、途上国と先進国間の食に関する不均衡の解決を目指す「TABLE FOR TWO」といった、国内外のソーシャルベンチャーの事例を参考に、学生たちは地域貢献に寄与するビジネスプランを磨いていく。

 宮城県女川町でトレーラーハウスを利用したホテルの経営を始めた小松洋介さん(31)は、奨学生の第1期生だ。

 町の中と外をつなぐため、日本全国を奔走する小松さんは仙台出身で、震災前は東京に本社を置く大手企業の北海道支社に勤めていた。震災後、「地元の復興に携わりたい」という思いが強まり、11年9月に退職。被災地を回る中で、女川町復興連絡協議会に参加し、13年4月には企業再建や新規事業の立ち上げを支援するNPOも立ち上げた。

 「走りながら考えるタイプ」と自己分析する小松さんは、仙台校での学習を、赤字だったホテルの抜本的な収支計画の見直しなどに役立てたという。NPOの運営でも、「人を育て、組織をつくる」ことを意識した仕事の進め方を実践するようになった。さらには授業で知ったことがきっかけとなり、女川版「TABLE FOR TWO」といった新しい企画も次々に打ち出している。

 「人への投資」を意識

 小松さんに限らず奨学生の多くは、学んだことを活用する事業や活動がはっきりとしている。福島県いわき市で商店街再生と福島県産米を使ったライスバーガーの国内外での販売に挑戦したり、津波で壊滅的被害を受けた宮城県亘理町で、高級ブランド・イチゴの生産や商品開発を手掛けたりと、復興に貢献することを念頭に学んでいる。その向学心の背景には、現場で感じた危機感や使命感がある。

 仙台校が、全国に5校あるグロービス経営大学院の中でも「暑苦しさナンバーワン」といわれるゆえんだ。

 ダイムラー・日本財団イノベーティブリーダー基金では、奨学金の他に、受講生が新規事業を起こす際のスタートアップ助成も行っている。設備などのハードよりも「人への投資」を意識。自己調達資金に加え、最大500万円を助成する。仙台校のプログラムや基金の支援を通じ、挑戦する人たちが着実に増えている。

 少子高齢化や過疎化が進む東北の被災地は、日本全体の数十年先の課題が先行して表れており、最前線として世界がその復興に注目している。厳しい環境の中で、挑戦を通じ日本の未来につながる希望の種が、フロンティアで芽を出し始めている。(日本財団・復興支援チーム 樋口裕司/SANKEI EXPRESS

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