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社会貢献活動への投資「呼び水」 「休眠預金」活用
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長い間取引のない銀行口座、いわゆる「休眠預金」を活用して、政府の対応だけでは十分に行き届かない弱い立場の人たちを支援する取り組みが、世界中で広がっている。
日本では、毎年800億円程度が新たに休眠預金になるという。うち最終的に預金者が名乗り出るなどで払い戻されるのが4割程度。残りは一定の手続きを経て、銀行の利益として計上されるケースが多い。
利益計上された後でも払い戻しに応じている銀行が多く、預金者の権利を最大限に保護した上で、それでも払い戻されずに残った預金については、社会全体の共有財産と位置付け、企業の利益とするのではなく、社会貢献活動などに活用し、国民に還元すべきだという意見は少なくない。
こうした休眠預金の活用で先行しているが英国だ。英国では、活用できる預金のうち2割弱を助成金に、残りの8割以上が投資資金として、NPOや社会的企業などを通じた社会貢献活動に使われている。その投資活動を担っている社会的企業が「Big Society Capital(ビッグ・ソサエティー・キャピタル)」という会社だ。
社会貢献活動というと、利益優先のイメージのある「投資」とは無関係のように思われることが多い。社会貢献活動への投資は、金銭的な利益ではなく、社会的な利益のために行われる。一般的な慈善団体は、寄付や助成金、ボランティアなどに依存して運営され、組織としての安定性に乏しい場合が多く、大きな社会的な利益を達成するのは難しい。
英国では、社会貢献でも投資を受けた側は当然、リターンを求められる。そのため、収益性を高めたり、コストを削減したりするなどの努力をする。投資する側も、資金を回収してリターンを得るために、二人三脚で投資先の経営を支援する。その結果、安定した収入を確保することに成功し、自立して社会貢献活動を行えるようになる。
なかでもビッグ・ソサエティー・キャピタルは回収率が高いことで知られており、その投資先に選ばれると、個人や財団などの投資家も、そこに投資するという現象が起きている。休眠預金を呼び水として、民間の資金が社会貢献活動に流れる仕組みができあがっているのだ。
日本でも、こうした休眠預金の活用を検討するため、2012年にNPOやシンクタンク、学識者、企業関係者が参加し「休眠口座国民会議」が発足した。事務局は日本財団が担っている。
発足時に開かれたシンポジウムには、貧困層を対象としたバングラデシュのグラミン銀行の創設者でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏も参加し、活用の必要性を訴えた。
休眠口座国民会議では、海外の事例や必要な法整備についての調査のほか、シンポジウムの開催などによる国民への周知と世論づくりを展開。実際に必要な法整備を実現するため、政府や国会議員に働きかけるロビー活動も行っている。その成果が実を結び、今年4月24日には、「休眠預金活用推進議員連盟」が発足した。
どのような分野に休眠預金を活用するのかなど、議論は始まったばかりだが、議員連盟の設立趣意書には「課題を解決するための民間資金活用呼び水」という言葉が明記された。
年間数百億円という金額は、国家予算96兆円に比べれば微々たるものだが、使い方次第では、何倍にも膨らみ、「ソーシャルイノベーション」(社会変革)を促す可能性を秘めている。(日本財団・企画推進チーム 石川陽介/SANKEI EXPRESS)