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政治
産官学連携に水差す東大
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東大を飛び出した研究者が設立したベンチャー企業「SCHAFT」のロボット。米国防総省が主催する災害救助ロボットの競技会で決勝進出を決めた=2013年12月、米フロリダ州ホームステッド(共同)
安倍晋三政権は昨年(2013年)12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」で、安保分野に関する産官学の力の結集を盛り込んだ。集団的自衛権の行使容認を視野に武器開発などで大学の研究成果を有効活用することを目的としている。ところが、最高学府として名高い東京大学では政府から今年度予算で811億円もの運営交付金の支給を受けながら、軍事研究と外国軍隊からの便宜供与を禁止している。安倍政権は安保分野の産官学連携に水を差す東大の姿勢に頭を痛めることになりそうだ。
国家安全保障戦略では、「産学官の力を結集させて安全保障分野においても有効に活用するように努めていく」と明記している。
これに対し、東大は1959年と67年の評議会で、軍事研究はもちろん、軍事研究として疑われることも行わない考えを確認している。また、東大と職員組合は69年に軍事研究と軍からの研究援助を禁止することで合意。東大紛争時に労組の要求に応じ確認書を作成した。軍事忌避の姿勢が、労使協調路線のもとで定着していった実態が浮き彫りになっている。
確認書は69年3月、当時の同大総長代行の加藤一郎、職員組合執行委員長の山口啓二の両氏が策定。確認書では軍学協同のあり方について「軍事研究は行わない。軍からの研究援助は受けない」とし、大学と軍の協力関係について「基本的姿勢として持たない」と明記した。
産学協同についても「資本の利益に奉仕することがあれば否定すべきだ」との考えで一致。軍事研究だけでなく、産学協同に消極的とも受け取れる内容になっている。職員組合は「確認書は成文化している。大学側から廃棄の通知はないので今でも有効だ」としている。
ところが、最近になって東大の複数の教授が米空軍傘下の団体から研究費名目などで現金を受け取っていたことが判明した。憲法に規定される「学問の自由」を縛りかねない大学の軍事忌避の姿勢に嫌気が差したようだ。
関係者によると、東大の男性教授は2005年、スイス・ジュネーブ郊外の欧州原子核研究機構(CERN)で反物質の研究を行う際、米空軍傘下の「アジア宇宙航空研究開発事務所(AOARD)」から「研究費」として7万5000ドルを受領。さらに、応用物理学に関する学会が07年に開かれた際、東大の男性准教授(当時)が米空軍の関連団体から学会の開催費用として1万ドルを受領。05年の学会でも別の男性教授(当時)が5000ドルを学会として受け取った。
研究費を受領した教授は「軍事研究はやっていない」と主張。学会の開催費用を受け取った当時の准教授は「東大の教員としてではなく、あくまで学会のメンバーとしてもらった。問題はない」と話している。
一方で、世界の主要国は産学官軍が協力し、安全保障の研究開発にしのぎを削っている。
日本では学外・国外への「頭脳流出」が目立つ。中でも東大では人型ロボット開発を行っていた研究者ら有志が12年、東大を離れ、ベンチャー企業「SCHAFT(シャフト)」を設立。大学で予算が獲得できなかったためで、東大の独自ルールが影響した。
シャフトは13年11月、ロボット事業に意欲を示す米グーグルに買収され、翌12月には米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)主催の災害救助ロボットコンテストの予選で、米航空宇宙局(NASA)など強豪15チームを抑えトップの成績を収めていた。
軍事忌避にこだわるのは東大だけでなく、私大では早稲田大学が1990年に「軍事研究および軍事開発は行わない」などのガイドラインを決めている。安保分野の研究開発をめぐり安倍政権と大学の間の認識の差を埋めるのは難しそうだ。(比護義則/SANKEI EXPRESS)