ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
国際
「ならず者」アサド氏再選を歓迎するイスラエル
更新
シリア・首都ダマスカス
6月3日、シリアで大統領選挙が行われた。
<内戦下でのシリア大統領選は4日、開票作業が終了し、同国のラハム人民議会(国会)議長は、現職のバッシャール・アサド大統領(48)が88.7%の票を獲得して3期目の当選を決めたと発表した。アサド氏は今後、国民の圧倒的な支持で正当性を得たと主張し、反体制派への攻勢を強めるものとみられる。任期は7年。国営メディアによると投票率は73.42%だった。
アサド氏は結果発表に先立つ4日、「国民はテロリズムに対して自分たちの信念を示した」とする声明を発表。これに対し、反体制派の活動家らはインターネット上で、「政権打倒まで戦い続ける」「選挙に正当性はない」などと主張している>(6月5日のMSN産経ニュース)
今回の大統領選挙は、複数候補の間で争われた。シリアの歴史で、大統領候補が複数いたのは初めてのことだ。アサド政権は、この事実を取り上げて、あたかもシリアでは民主的な大統領選挙が行われたかのごときプロパガンダ(宣伝)を行っている。しかし、それを額面通りに受け止める人はいない。アサド氏以外に当選する可能性のある人が1人も立候補していないからだ。ちなみにアサド氏以外の候補の得票率は、実業家のヌーリ氏が4.3%、人民議会議員のハッジャール氏が3.2%だった。
<投票は政権側の支配地域を中心に行われ、国営メディアによると、登録有権者約1580万人のうち約1160万人が投票した。国外に逃れている270万人以上の避難民の大部分は、棄権するか投票できなかったとみられる>(MSN産経ニュース)
アサド政権は、シリアの全域を実効支配することができていない。国際法上の国家承認の要件は、当該国家の全領域を実効支配できていることと、当該国家が国際法を順守する意思を有していることだ。アサド政権は、自国民に対して毒ガスを使用するという国際法に違反する行為を平気で行う。現在のシリアは、国土全域の実効支配もできず、国際法も破る「ならず者国家」もしくは「破綻国家」である。従って、米国、EU(欧州連合)、日本などがこの選挙結果を認めないのは、当然のことだ。
しかし、アサド体制を覆すことを意図する国もない。従って、自国民に対して毒ガスを用いるようなアサド政権が今後も続くことになる。
もっともアサド氏の再選を歓迎している国もある。その筆頭がイランだ。<ローハーニー大統領は8日日曜に、アサド大統領にお祝いのメッセージを寄せ、「シリア大統領選挙が成功裏に実施されたことは、同国の国民が政治の舞台や国家の将来を決定する場に参加しようという、強い意思を有していることを物語っている」としました。(中略)ローハーニー大統領は、このメッセージの中でさらに、「間違いなく、シリア大統領の勇敢さにより、シリアは危機を、無事に切り抜けるだろう」としました>(6月9日「イランラジオ」)
ところで、公然とは述べないが、イスラエルもアサド氏再選を歓迎している。シリアはイスラエルの力を熟知している。アサド大統領は、口先でいくらイスラエルを罵(ののし)っても、攻撃を仕掛けることはない。そのときは、イスラエルのミサイルが首都ダマスカスを含む、アサド政権の支配地域に打ち込まれ、文字通りアサド政権が消滅することをわかっているからだ。アサド政権が実効支配できているのは、首都周辺と出身地のシリア北西部に過ぎない。しかし、脆弱(ぜいじゃく)な反体制派がアサド政権を倒すと、シリアは誰も統治できていない無法地域になり、そこがアルカーイダの拠点になる。それよりは、「手の内が読める敵」のアサド政権が存続した方がましとイスラエルは考えている。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS)