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経済
マイナス金利は株式シフトのチャンス
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実質マイナス金利と景気動向=2012年12月~2014年6月
黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は、市場関係者の間に根強かった日銀の追加緩和観測に動じることなく、現行の緩和策の堅持を打ち出した。総裁は消費増税による景気への悪影響は一時的と見なし、「雇用、所得環境の改善基調が続く。個人消費の基調は底堅い」と強気そのものだ。その根拠は「実質マイナス金利」である。
実質マイナス金利はいわば異次元の金融緩和政策の核心をなす。総裁をリフレ理論で支える岩田規久男副総裁は、名目金利から予想インフレ率を差し引いた実質金利がゼロ以下であれば、余剰マネーは設備投資や消費へと向かい、実体景気を押し上げると長年唱えてきた。実質マイナス金利にするために、大胆な量的緩和政策によって国債利回りを低下させる半面で、予想インフレ率を引き上げる。
「岩田理論」は実際に効果をどれだけ挙げているのか。
つまり、名目金利から消費者物価上昇率を差し引いて実質金利と見なす。その実質金利動向を見ると、1年定期預金は2013年6月から、10年物国債では13年8月から、実質金利がマイナスになっている。名目金利や利回りがインフレ率を下回る超低金利の預金や短期金融商品で運用するのは、だれでも不利この上ない。そこで、多くの家計は現預金を、企業の大半は手元の余剰資金を消費や設備投資に回す行動に出るはずだ。あるいは、家計や企業のカネは株式や投資信託にも流れ出すかもしれない。
ことしからは、少額投資非課税制度(NISA)が始まり、銀行の窓口では盛んに株式投資や投信の口座開設を勧められて、応じた読者も多いだろうが、外国人投資家はNISAが始まる直前から日本株を売って巨額の利益を稼いだ。
国内総生産(GDP)の6割を占める家計消費はどうか。総務省発表の消費水準指数でみると、マイナス実質金利になっても、13年12月と駆け込みのピーク時の今年3月を除けば、12年12月の水準よりも10%前後低い。春闘で給与は上がったが、賃上げ率は1~2%にとどまり、消費増税転嫁分を加えたインフレ率3%以上(うち消費税増税分は2%程度)に及ばず、実質賃金は目減りする。消費増税は長い期間、家計消費の足かせとなるのは避けられない。黒田総裁の個人消費への見方は明らかに楽観過ぎるように思える。
それでも、増税による「消費不況」を吹き飛ばせる可能性がないわけではない。話を元に戻すようだが、やはり決め手は株価である。
日本では家計の株式保有率が高い米国ほどの株高に伴う消費刺激効果は高くないが、アベノミクスが事実上、スタートした12年12月以降の株価上昇期に家計消費はかなり改善した。しかし、13年5月に株価が失速すると、消費水準も急低下した。
計130兆円に迫る日本の厚生年金と国民年金の積立金を運用する「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」にもっと株式投資させるような、小手先の株高誘導策では意味がない。NISAがそうだったように、日本の株価を支配するウォール街の投資ファンドのカモにされるだけだ。
安倍政権は株式市場に対する家計の信頼を増進させ、現預金を株式にシフトさせ、株価を着実な上昇軌道に乗せる方策にもっともっと腐心すべきだ。そのためには、増税のように景気の先行きを不安定にする政策をしないことはもちろんだ。
繰り返すが、実質マイナス金利のときこそ、総額873兆円(13年末)もの家計現預金を株式投資に振り向けさせるチャンスなのである。(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男/SANKEI EXPRESS)