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香港 80万人が住民投票、高まる対中不信
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中国・香港 香港民主派が実施した2017年の行政長官選挙の改革案に関する住民投票は、6月29日の期限までに10日間で約80万人が投票した。返還から17年を迎える7月1日には大規模な反中デモも計画される中、中国共産党指導部は香港民主派の「脱中国」を求める動きに警戒感を強めている。
住民投票は人口700万人の香港で永住権を持つ18歳以上の市民が対象。インターネットや各地に設置された投票所で受け付けられ、投票者数は主催団体の予想を大きく上回った。
背景には香港市民による対中不信の高まりがある。1997年の返還まで香港を統治していた英国の主要紙フィナンシャル・タイムズは6月25日、対中感情の悪化について「大陸マネーによる物価上昇や、中国観光客のモラルに欠けた振る舞い」などを理由に挙げ、「最も根本にあるのは報道の自由と司法の独立がむしばまれていることだ」と指摘した。また住民投票サイトへの組織的なサイバー攻撃や、中国の元高官による「中国への抗議行動が手に負えなくなった場合には、人民解放軍が鎮圧のために出動することもあり得る」との脅しも、「かえって人々を投票へと駆り立てた」と分析した。
米紙インターナショナル・ニューヨーク・タイムズは(6月)28日、「住民投票の最も熱心な支持者は高校生や大学生などの若い世代だ。投票所の運営に関わり、家族に投票を呼びかけている」と紹介した。「若い世代は、香港の未来は自分たちの双肩にかかっていると感じている」。17歳の女性活動家は、民主化への情熱についてこう語っている。「香港社会の不平等が、人々を投票に駆り立てているひとつの原因だ。民主的システムがなければ政府に変化を求める圧力は生じない」
インターナショナル・ニューヨーク・タイムズは香港のさまざまな世代や階層間で、「返還後は中国共産党とつながりのある人物が富と機会を独占している」との声が満ちていることも紹介した。
(6月)21日発行の英誌エコノミストは「法の支配と報道の自由は、香港の繁栄の基礎であり、いまだに上海が香港に追いつけない理由だ」と主張。「もし中国の習近平国家主席が真剣に汚職問題に取り組む気があるなら、国内の法律制度をなんとかして香港に近づけなければならない」と注文を付けた。
さらに英国からの返還時に香港基本法で定めた香港行政長官選の「普通選挙導入」など、中国が香港との約束を破ることになれば、台湾の人々は「一国二制度」によって中台統一ができるとは考えられなくなると指摘している。
香港と同様に対中警戒感が強まっている台湾の有力紙、自由時報(電子版)は(6月)30日、香港の住民投票に参加した退職男性のコメントを紹介した。
「奴隷になりたくないから、投票に来た。権力というのは人民が政府に与えるものだ。しかし現在の中国では逆に、人民の権利は政府から与えられている」
こうした香港の民主派による「脱中国」の動きに対して、中国メディアは警戒感をむき出しにしている。中国共産党機関紙、人民日報傘下の環球時報(電子版)は(6月)21日、「住民投票は非合法で、その結果は何の法的効力も持たない」と主張する社説を掲載。「香港の反対派は騒ぎすぎた。結局は壁にぶち当たるだろう」と警告した。
さらに環球時報は(6月)30日、80万人近くに達したと発表された投票者数に対し、「電子投票では二重投票が可能だと多くの人が指摘している」と強調。投票結果を中国、香港両政府が尊重しない場合、国際金融機関が集中する地区を占拠して抗議活動を行う方針を示している民主派に対し、「香港の多元社会を分裂の方向に推し進めるもので、香港の絶対多数の住民の利益に合致しない」と批判した。
さらに環球時報は「現在ネット上では、香港民主派への応援を呼びかける中で、天安門(広場)の占拠を呼びかける声すらある」と非難。「香港の市民は、極端な勢力が国家全体を攪乱しようと努めていることを理解しなければならない」と危機感をあらわにした。
民主、自由を熱望する民衆と、体制維持への危惧を強める中国当局。これは25年前に多数の死傷者を出した天安門事件と同じ構図だ。米紙ウォールストリート・ジャーナルは(6月)24日、こう警鐘を鳴らした。「今回の住民投票の教訓は、香港の人々が自らの政府について真剣に考えており、当局からの脅しにもひるまないということだ」(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS)