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植物の種 多様なデザイン 命を運ぶ「極上フェザー」

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植物の種 多様なデザイン 命を運ぶ「極上フェザー」

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鳥の羽毛のような毛をもつクサボタンの実=2013年12月18日(久保秀一さん撮影)  軸から無数に出た絹毛(きぬげ)は、白い鳥の繊細な羽毛を思わせる。上等のフェザーをもったこの実の主は、クサボタン。本州の山に自生し、日当たりの良い草原や林のふちでよく見かける。

 うす紫色の花が散ると、十数個の子房(しぼう)が残る。子房にはめしべが落ちずに残っていて、やがてそこから絹毛が生える。子房が球状に集まっているため、実が熟すころ、全体はふわふわした羽毛のボールのようになる。晩秋の風が羽毛のボールを揺らすと、熟した実は風に乗って母体を離れる。

 タンポポ、ガマ、ガガイモ、ヤナギなど、実や種に毛をもつ植物は多い。風を利用して繁殖地を広げる作戦を選んだ植物たちだ。毛は、ありとあらゆるパーツから生み出される。タンポポの綿毛は花のがく片(へん)が、ガガイモやヤナギの毛は種の皮の一部が変化したもの。ガマは子房の下にある柄の部分から毛を生やす。植物学では、発生の由来によって「種髪(しゅはつ)」「冠毛(かんもう)」などと呼び分けている。

 人間の毛の生え方などは、およそ決まったパターンで固定されており、そこから外れた現象が起こると一大事になりそうだ。それに比べて、植物の柔軟さはどうだろう。クサボタンの見事な毛にも、次世代のいのちをどこにどのように散布するか、植物の生き残りをかけた進化の経過が刻まれている。

 ≪したたかに、美しく 生き残りかけ進化≫

 植物が人の目を引くのは、やはり花の美しさだろう。通りすがりの道端の草にも、花が開けば目がとまる。100の草が100の花を咲かせ、季節の仕事をしていることに感心するが、花が終われば忘れられてしまう。しかし、植物にとっては花が咲き終わったあとからが本番だ。子房の中で細胞分裂を始めたわが子を守り、最適のタイミングでちょうどいい場所へ送るために、あの手この手のサバイバル作戦を展開する。その結果、植物の種や実は、花にも負けない多様なデザインをもつようになった。

 キケマンの種は、透明な羽衣を身につけている。羽衣は糖分や脂肪分を含む高カロリーのごちそうで、アリをひきつけ、運んでもらって分布を広げている。羽衣は植物学で「エライオソーム」とよばれているが、どの部分からどのように作られるのか、いまだによくわかっていない。この「種にごちそうを生やす」作戦は、スミレやヒメハギなどさまざまな植物が採用している。

 リンドウは、吹けば飛ぶような極小の種を大量に作り、一つ一つに羽をつけた。ヤドリギは、鳥の体内を通って別の木に引っ越しする作戦だ。全体を包む薄い皮がはがれると、ネバネバした粘液が露出し、鳥に排泄(はいせつ)されて木の枝にくっつく。

 しかし、種子散布のための機能論だけでは、このデザインの多様性は説明しきれない。シンジュガヤの実が真珠のように美しい理由や、アオツヅラフジの濃紺の実にひそむ種になぜアンモナイトのような造形が刻まれたのか、モロヘイヤの種の深い青色はどこから来たものか。植物が数億年をかけ、あらゆる変化をいとわず、したたかに生き残るための方法を開発してきた結果であることは間違いない。なにかと理屈をつけて納得したがる、人間の知恵が及ぶはずもない、種や実の美しさである。(文:編集者 清水洋美/撮影:写真家 久保秀一(ひでかず)/SANKEI EXPRESS

 ■しみず・ひろみ 1965年生まれ。出版社勤務後、フリーの編集者として子供向けの自然科学の書籍を主に手がけている。「ずかん たね」の企画・編集を担当した。

 ■くぼ・ひでかず 1941年生まれ。フリーの写真家として身近な自然や生物の生態を幅広く撮影。単行本、教科書、月刊保育絵本などで活躍。「ずかん たね」の精緻な写真をすべて撮りおろした。

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