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愛しのラテンアメリカ(13)コロンビア 公共バスの中は「表現の場」
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首都ボゴタの美容サロン。男性もおしゃれに気を使う人が多い=コロンビア(緑川真実さん撮影) 南米大陸の航空写真を見ると、西側の海岸線に沿うように、大地の色が茶色と緑色にくっきり分かれている。これは、6000メートル級の高峰を10座以上抱え、各国の風土や文化に大きな影響を及ぼすアンデス山脈が存在するからだ。
7月14日(日本時間)に閉幕したサッカー・ワールドカップ(W杯)。史上初のベスト8入りを果たす破竹の快進撃を繰り広げ、ハメス・ロドリゲス(23)という新たなスターまで生み出し、一躍名をあげたコロンビア。
そのコロンビアの首都ボゴタもアンデス山脈の盆地に位置し、標高約2600メートルの高地だ。もちろん酸素量も東京より少ない。南米旅行に高山病はつきもので、コロンビアから始まった私の極度の乗り物酔いは、この「アンデス病」の前兆だったと今になって思う。
空港から市内へ向かうバスに乗車した。ゲリラや麻薬組織の犯罪で悪名高いコロンビアのイメージを思い出して緊張したが、不穏な空気は感じられない。バスが走る大通り沿いには緑地が広がり、整然としていてまるで学園都市のようだ。ほぼ直角に直線の脇道が伸びるためはるか先まで景色が望め、碁盤上に広がっていたボゴタの地図を思い出した。
中南米のバスや地下鉄では、文房具やお菓子、CD販売や物ごいなど、移動中はいつもさまざまなドラマが繰り広げられる。ボゴタは加えてアーティストの表現の場にもなっており、よく詩を朗読する人に遭遇した。乗客も好意的に聞き入り、正直な評価を下す。まったく反応がない酷評の時もあれば、ざわめきが起こることもある。
≪まるで別世界 息づく民族文化≫
ある日バスに乗車してきた20代後半に見えるメスティーソ(混血)の男性は、詩が書かれた紙を乗客全員に渡したあと、詩の抑揚に合わせて右腕を大きく振り、1分ほどの朗読を行った。情感豊かに繊細な言葉で紡がれた詩に対して「ムイビエン(スペイン語で素晴らしいという意味)」と最初はパラパラとあがった声は徐々に広がり、20人ほどいた乗客全員から拍手が起こった。気を良くした青年はアンコールに応えてもう一編読み始めると、車内はすでに彼の独壇場と化した。あっという間に公共バスが移動劇場へと変貌したのだ。ノリも人柄もいいコロンビア人気質がにじみ出ていた。
カメラを手に持って歩けば、常に周囲の人が「気をつけて」と注意を促し、市場に行くと「あの店の主人はだますから気をつけな」とこっそり教えてくれる。市民による監視の目が、観光客の安心感につながっていた。
コロンビア南部、アンデス山中の奥深くにあるシルビアという村の周辺に、顔つきや背格好がペルーやボリビアの先住民とよく似た、「グアンビアーノ」という民族が住む。インカ帝国がこのエリアまで拡大していたときに、ボリビア辺りからやってきたという説もあり、本当だとしたら途方に暮れるような距離を歩んできたことになる。
現在グアンビアーノ族の女性は、鮮やかな青紫のショールとおかっぱ頭、男性は青紫の巻きスカートが特徴的で、男女ともに民族衣装を着ている割合がとても高い。毎週火曜日に行われる市場にシルビアまで足を運ぶと、野菜などを並べて女性たちが地べたに座っていた。その前まで滞在していたボゴタの都会的な喧噪(けんそう)とはまるで別の世界が広がる。同じ国でまったく異なる文化を体験できるのも、南米旅行の醍醐味(だいごみ)の一つだ。(写真・文:フリーカメラマン 緑川真実(まなみ)/SANKEI EXPRESS)