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【上原浩治のメジャーリーグ漂流記】サポート企業に感謝 結果で恩返し
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数カ月に1度、日本から大きな段ボール箱が届く。
中身はプロテインなどのスポーツサプリメントだ。気を利かせてか、日本のお菓子も入れてくれている。サポートを受ける企業からだ。自分ではどれだけ意識をしていても、食事の中でビタミンや鉄分などが不足してしまう。スポーツサプリメントはコンディション調整のために欠かせないものになった。
プロ入りして3年目のオフ。後輩の選手に橋渡しをしてもらって一人の管理栄養士と出会った。スポーツサプリメントブランド「ザバス」を展開する食品大手、明治の大前恵さんだ。実は記憶にないのだが、彼女とはプロ1年目のときが初対面だった。投手コーチだった鹿取義隆さんの紹介で、食事や栄養の大切さを説いてくれたことがあるらしい。当時は20代前半。まだ体に対する意識が低かった。「らしい」というくらいだから、そのときのことは頭から抜け落ちていた。
1年目のシーズンを終えたオフ。1通の手紙が届いた。大前さんからだった。「栄養でできることはいっぱいあるぞ」。そんなことが書かれていた。プロ2年目からは故障もあって納得のいく投球ができなくなった。2年目も3年目もオフになると手紙が届いた。プロ入りから4年目。寮から出ることができる時期だった。大前さんと親交のある後輩に改めて紹介してもらったのは、そんなときだった。
当時は先発投手。登板の前日に炭水化物を多く摂取し、当日もイニングの合間に吸収の良いサプリメントで炭水化物を継続的に摂ることで必要なエネルギーが生み出されていくことや、登板直後からプロテインを体内に取り込むことでリカバリー効率が上がることを教えてもらった。「言われただけではやらない。自分が納得しないと行動に移さない」。そんな自分の性格を見透かされているように丁寧に理論立てて説明してくれた。
思考錯誤しながら臨んだ4年目の春季キャンプ。付き合いのあるメディアの人たちと食事中に、よくお酒を飲むことを彼女に話すと、なんとキャンプ地の宮崎まで乗り込んできた。
「お酒は1日750ミリくらいならリラックス効果も生むから、たしなむのは良い。だけど、飲み過ぎは肝臓に負担をかけるだけ。メディアの皆さんも本当に上原君のためを思うなら、深酒の誘いはやめてほしい」
付き合いのある記者たちはそれ以降、無理に酒を勧めてこない。その年は新人以来の最多勝や沢村賞などのタイトルを獲得し、日本一にも貢献できた。
2009年にメジャーに移籍してからも、サポートを続けてくれている。
2年目からセットアッパーやクローザーへと役割が変わった。連投も茶飯事で、昨季はワールドシリーズまでの長丁場だった。先発投手のように前日に炭水化物を多く摂る必要がなくなった分、日々のブルペンから積極的に炭水化物を摂って登板に備えている。大前さんと出会ったことで、自分でも体のことや食事の大切さを勉強するようになった。「栄養でできることはいっぱいあるぞ」。あの言葉は嘘ではなかった。いまは断言できる。ここまで現役を続けられているのは、大前さんとザバスのおかげだと。
用具はナイキで上から下までそろえている。打つことはほとんどないからバットは必要ないけれど、グローブやシャツ、靴などは必要な時に連絡をすれば、日本からすぐ送ってくれる。チームメートからもうらやましがられて、よく「いいな、くれ」とせがまれる。
今年になってからは、サントリーからビールを、花王から入浴剤を提供していただけるようになった。日本を離れても、日本から支えてくれる企業がある。本当に感謝しないといけないと思っている。ツイッターやブログに感謝の気持ちを書いたりしているが、一番の恩返しは、やはり野球で結果を出していくことだと思う。「上原をサポートしている」。そのことを企業の皆さんに誇りに思ってもらえるように-。そんな思いも強い。
海を渡って6年目。39歳の今季は初めてオールスターにも選出された。自分のパフォーマンスを支えてくれている人たちのためにも、これからも日本に活躍を届けていきたい。(レッドソックス投手 上原浩治/SANKEI EXPRESS)