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【上原浩治のメジャーリーグ漂流記】20代で海を渡れる幸せ
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米ニューヨーク・ブロンクス もう10年近く前になるが、苦々しい経験がある。
まだ巨人に在籍していた時代。ポスティングシステム(入札制度)による米大リーグ挑戦を訴えたときのことだ。球団の「NO」という姿勢以上に、世間から「わがまま」というような非難を浴びたことがあった。
今季、楽天から田中将大(まさひろ)投手がヤンキースに移籍した。ポスティングシステムによるものだった。オフの時期は日本に帰国していたので、日本中が応援ムードに包まれていたのを知っている。マサ(田中投手)の挑戦がどうこうというのではなく、世間の“空気”に対して、自分の中で納得できない部分がぬぐい去れなかった。
「なんなんやろうか、入札制度って」。この制度について聞かれることがよくあるが、自分の中ではいまだに答えが出せないでいる。
昨年(2013年)末には、従来の最高入札額の1球団のみが交渉権を得られる仕組みから、約20億円を上限に入札した全球団に門戸が開かれる制度に変更された。
それでも、根本的な部分は変わっていない。日本の12球団の中には、認める球団と認めない球団がある。その時点で、果たして統一されたルールといえるのだろうか。日本球界のOBとして、メジャーに移籍した人間として指摘したい点だ。
2008年の開幕直後。海外フリーエージェント(FA)の資格を取得してすぐに、翌年のメジャー挑戦を表明した。
まだ巨人の一員であり、シーズンも始まったばかりだった。それでも、自分に嘘をつきたくなかった。何も隠し事なく、日本で最後のシーズンを全うしたいと思ったからだ。
メジャーに挑戦したとき、すでに30歳を過ぎていた。海を渡ってからも、多くのことに対応するために時間はいくらあっても足りないくらいだった。だからこそ、今でも、「メジャーへ行くなら、若ければ若いほうがいい。20代で行けるなんて、そんな幸せなことはない」という思いが強い。
4月3日に39歳になった。
FAまで我慢した思いが自分の支えになっているのは間違いないが、そのことがこの年まで現役を続けられた要因かと聞かれれば、それはどうだろうか。あまり深く考えたこともない。もちろん、ジャイアンツ(巨人)での10年があったからこそ、今の自分がある。そのことは間違いない。それでも言えることは、ポスティングシステムで挑戦させてもらえていたなら、やっぱり願い出ていただろう。
選手の立場から、12球団の選手が平等にメジャー挑戦できるための統一ルールを作るとするならば、9年を要する海外FA権の取得年数を短縮するしかないのではないか。その上で、ポスティングシステムも廃止すべきだと思う。もちろん、日本の球団もビジネスだから、ポスティングでお金を得られなくなるデメリットがあることはわかる。そのことを考えれば、着地点を見いだすことが難しいのは当然だ。ただ、「12球団統一」を掲げる以上、所属する球団によって移籍基準の実態にばらつきがあるような現状はおかしい。
毎年のようにポスティングシステムでメジャーに移籍してくる日本選手がいる。夢をかなえられるメリットがある一方で、期待も大きい。当然、まわりの目も厳しくなる。FAで行った自分とはまた違った“苦労”もあるだろう。
日本の若い選手がメジャーを目指す傾向は今後も変わらないだろう。その中で、現状ではどういうアドバイスが適切かわからない。ルールがある以上、挑戦したいならその中で方法を探るしかない。球団が認めてくれるなら、ポスティングシステムを使えばいいし、認めてもらえないならFAまで待つしかない。自分でコントロールできない部分に、もどかしさを感じても始まらないのも現実だ。(レッドソックス投手 上原浩治/SANKEI EXPRESS)