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【上原浩治のメジャーリーグ漂流記】喜びの日々は終わり 成長が楽しみ

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【上原浩治のメジャーリーグ漂流記】喜びの日々は終わり 成長が楽しみ

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 達成感はとっくに胸にしまい込んだ。

 11月26日。帰国から3日後、練習場所としてお借りしている東京都内の施設でトレーニングを再開した。まだボールは触らず、芝のグラウンドを走り、室内でウエートトレーニングを行った。不安を抱える両足などをケアしつつ、エアバイクもこいで気持ちよく汗を流した。

 メジャーに1年でも長く

 メジャー5年目のシーズン。初めてワールドシリーズ制覇を経験し、胴上げ投手にもなった。シーズン中も続けたこのコラムをシリーズ制覇後に初めて書く。もっと喜びの感情が残っているのではと思うファンもいるかもしれないが、11月2日に本拠地のボストンで行われた優勝パレードで余韻に浸る日々も終わった。今は、日本での取材で聞かれたときに振り返るくらいだ。

 来季はまた新たな戦いが始まる。モチベーションもこれまで通りだ。ワールドシリーズを勝つことはもちろん最終的なゴールだが、これまでも優勝だけを目標に投げてきたわけではない。メジャーのマウンドに1年でも長く上がり続けることに対する意識の方が強い。

 何よりもレギュラーシーズンが第一。そこを勝たないと、上のステージにも行けない。だからこそ、終わったことをいつまでも喜んでいる時間はない。引退したときに当時を思い出して「よかったな」と。それでいいと思う。日本でもアマチュア、プロとずっとそう考えてきた。

 理想を追いかけていく

 もちろん、ワールドシリーズ制覇が大きなプラスの経験になったのは確かだ。ただ、プラスの経験を振り返ってもさらなる成長はない。自分の中では、打たれた場面を思い出すことの方が多い。マイナスをどうプラスに変えていくか。だからこそ、打たれた場面は全部覚えている。

 打たれることは、もちろんある。大事なことは反省だ。「なぜ打たれたのか」。配球はどうだったか、投球フォームは崩れていなかったか。ショックを引きずることはマイナスだが、自問自答は欠かせない。

 成長は楽しみだ。その余地はいくらでもあると思っている。今季の成績も周囲は高く評価してくれたかもしれない。それでも、防御率が0点だったわけではないし、対戦相手を全員抑えたわけでもない。

 もっと速い球を投げれるなら投げたい。コントロールもよくしたいし、変化球ももっと切れが出るようにしたい。

 投手としての完成はないだろう。現役を引退するまで理想を追いかけていくしかない。自分自身としては、そのために考えることが嫌ではなく、むしろ楽しみなのだ。

 すべてが野球につながる

 シーズン162試合の長丁場を戦い抜き、ポストシーズンでも登板が続いた。正直に打ち明ければ、シーズン中には腰に痛みが出た時期もあった。

 オフに体を休めることの大切さもわかっているつもりだ。ただ、これまでも書いてきたが、練習をしないと不安になる性格でもある。自分なりに考えてたどりついたのが、「休みながら動く」という今の調整方法だ。

 シーズン中と違い、精神的にはリラックスできている。夜に親しい知人らと食事をして気持ちをリフレッシュするというルーティンも自分なりに作っている。帰国後、今季は特に機会が増えたテレビ出演も、心の中では経験と思っている。スポーツ番組をはじめ、情報番組やバラエティー番組…。特に生放送などは臨機応変の対応も求められる。こうした緊張感は、マウンドでも生きると思う。オフの時間は、楽しみつつ、すべてが野球につながると考えて行動している。

 来季はもう一度、気持ちを切り替えてのチャレンジ。チームも補強するだろうし、クローザーのポジションにチャレンジする気持ちで臨むことに変わりはない。周囲からの期待よりも、自分が自分に対して期待し、不安も常に持ちながら戦っていく。新たな「メジャーリーグ漂流記」の始まりだ。(レッドソックス投手 上原浩治/SANKEI EXPRESS

 ■うえはら・こうじ 1975年4月3日、大阪府生まれ。1浪して入学した大阪体育大時代に才能が開花。3年時に日本代表に選ばれ、国際大会151連勝中のキューバから白星を挙げる。99年にドラフト1位で巨人に入団。1年目に20勝を挙げて最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率と史上10人目の「投手4冠」を達成し、新人王と沢村賞を受賞する。その後は巨人のエースとして活躍したほか、日本代表として2004年アテネ五輪で銅メダル、06年ワールド・ベースボール・クラシックで優勝に貢献。09年から米大リーグに移籍し、今季が5年目。 

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