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経済
進まぬ「家事代行」 外国人解禁に戸惑い
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家事代行サービスのシェヴ(東京都港区)が紹介するフィリピン人スタッフは家事技術の高さと人柄のよさで顧客の評判がいい=2011年5月11日(シェヴ提供) 政府は、経済活性化に向けた女性の活躍支援策の一つとして、年明けにも一部地域で家事代行サービスへの外国人労働者の受け入れに踏み切る。家事代行の担い手を増やし、家事や介護などの負担で家庭内にとどまっている女性の就業を後押しするなどの狙いだ。だが、家事代行サービスは割高な料金や他人を家に入れることへの不安感などが障壁となって一般の利用が進んでいない。政府の思惑とは裏腹に、サービス事業者には単に外国人を受け入れても需要は広がらないとの戸惑いが広がっている。
国内では現在、家事労働目的で外国から人を呼んで雇用することはできない。例外として外交官や一部企業の経営者など駐在員が「帯同」として雇うことは認めているが、雇用主以外の家事はできず、企業関係者は月額20万円以上の報酬を支払うこと、13歳未満の子供がいるなどの厳しい制約もつく。
これに対し、政府は年明けにも関西の国家戦略特区でフィリピンやインドネシアから家事従事者を受け入れる方針だ。受け入れは、18歳以上で単身の来日、5年程度の期間上限を設け、フルタイムで企業による雇用を想定。賃金体系は日本人と同様にする。家事代行サービスの業界各社と自治体でつくる推進協議会で指針をつくり、管理・監督を行うという。
しかし、外国人受け入れの効果について、業界内からは疑問の声が上がる。
創業30年を迎える業界草分けのミニメイド・サービス(東京都渋谷区)の山田長司社長は「教育コストや日本人家庭の需要が伴うかを考えるとハードルは高い」と指摘する。都市部の住居費や交通費、日本語教育費など受け入れに伴う費用をすべて事業者が負担することになれば、割高とされるサービス料金がさらに上がりかねないからだ。
また、永住権を持つフィリピン人女性スタッフらも活用し、外国人駐在員や富裕層向けに家事代行サービスを提供するシェヴ(東京都港区)の柳基善(ゆう・きそん)社長も「日本は家事代行サービス自体にまだまだ抵抗がある。外国人受け入れは一般家庭というより共働きの高所得者層向けになるのでは」とみる。業界の関係者からは「来日する海外企業関係者の家事使用人のため、米国から(規制緩和の)プレッシャーがあったようだ。政府は対日直接投資を呼び込むために(受け入れを)急いだ」との声も漏れる。
野村総合研究所が25~44歳の女性2000人を対象に行った調査によると、料金や心理的な不安などを理由に家事代行サービスの国内での利用率はわずか2%にとどまっている。
代行サービスの信用度向上に向けた認定制度などを検討している政府主催の協議会に参加する事業者、ベアーズ(東京都中央区)の高橋ゆき専務は「利用者や企業に国が補助金を出すなど市場開拓と産業基盤づくりが本来なら先」と述べ、見切り発車的な外国人受け入れの解禁を牽制(けんせい)。「少なくとも受け入れのスキームづくりに業界関係者ら専門家を入れるべきでは」と、政府に注文をつける。
「代行サービスは、仕事も、育児も、家事もと抱え込みがちな日本女性や介護家庭の支援になり得る」。野村総研の武田佳奈主任コンサルタントは政府の方針に理解を示すが、やはり外国人受け入れは「信頼性の向上、費用の負担軽減策など利用者が安心して利用できる環境が整ってから」と、強調する。政府が狙いとする女性の活躍支援の効果を上げるには、代行サービス自体の産業育成の戦略が求められている。(滝川麻衣子/SANKEI EXPRESS)