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米大統領、イラク限定空爆を決断
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バラク・オバマ米大統領(53)は8月7日夜、ホワイトハウスで声明を発表し、イラクで攻勢を続けるイスラム過激派「イスラム国」に対し、米軍による限定的な空爆を承認したと表明した。米軍は7日、イラク北部シンジャールの上空から、イスラム国に追い詰められたクルド族の住民4万人に、人道支援物資を投下した。
大統領は「過激派が北部クルド人自治区のアルビルへ進撃し、(そこで活動する)米国人(軍人)の生命が危険にさらされる場合や、シンジャールの住民の状況がさらに悪化し、イラク政府から要請があれば行動を取る」と表明。これらを前提とする空爆命令を、米軍にすでに出したことを明らかにした。
米、イラク両軍はアルビルに統合作戦センターを置いているが、イスラム国はそこから約60キロの地点まで迫っている。イスラム国は7日、北部のキリスト教徒の街カラコシュなども制圧。教会で十字架を下ろしたという。
シンジャールでは、クルド族の少数派ヤジド派の住民が山頂に追い詰められて孤立。十分な食料や飲料水もなく、子供40人が高温と脱水症状のために死亡しており、米政権は輸送機3機で8000食分の支援物資を投下した。
オバマ大統領が空爆を承認したのは、一義的に「米国人の安全確保と人道目的」という理由からだ。これまでのイラク支援策は奏功しておらず、外交・安全保障政策に対する国内外の不満は高まるばかりで、失墜した「指導力」を取り戻す狙いもあるとみられる。
「米国人を守り、大量虐殺を防ぐことは米軍最高司令官としての責任だ。ただ、米国がイラクに再び引き込まれることは許さない」
ホワイトハウスで声明を読み上げたオバマ大統領は、こう強調した。本音ではいかなる軍事介入も避けたい大統領にとって、苦渋の決断だったといえる。
大統領はこの日、安全保障担当補佐官らと協議を重ねた末に、重い腰を上げた。大統領はこれまで、イラクのヌーリー・マリキ首相(64)の再三にわたる空爆要請を事実上、拒否してきた。情勢悪化を招いた最大の要因は、マリキ首相が各宗派との融和に注意を払わなかったことにあるとの考えに加え、何よりイラクに「逆戻り」したくないためだ。
このため約800人の米兵などを投入し、イラク軍の「自助努力」を後押しするという、必要最小限の関与にとどめてきた。しかし、戦況が好転する兆しは見られず、米国内では国民の6割が、オバマ外交に不満を示している。
今回、イスラム国が米兵が活動するアルビルに進攻しかねないことは、大統領にとり限定的空爆に踏み切る“大義名分”となった側面がある。ただ、大統領が米軍に許可した限定的な空爆は、「もし必要であれば」という条件付きだ。最終局面で優柔不断ぶりを再び露呈するようだと、米軍の大統領に対する信頼すら失いかねない。(ワシントン 青木伸行/SANKEI EXPRESS)
≪イスラム国、女性数百人を奴隷化 他宗教・宗派に敵意≫
AP通信などによると、イラク政府軍やクルド人勢力と戦闘を続けるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」は、ここ数日で北部モスル近郊のダムや軍関連施設など17カ所を占領したと主張している。クルドやアラブ系の複数のメディアは、イスラム国がクルド人の宗教少数派、ヤジド派の女性数百人を「奴隷」にしたとも伝えており、他宗教・宗派を敵視する偏狭な態度が際立っている。
イスラム国は今月(8月)、ヤジド派が多く住むイラク北部の町シンジャールへの攻撃を本格化。数千~数万人の住民が山岳地帯に逃げ込んだほか、女性数百人がイスラム国戦闘員にとらえられ、奴隷にされたという。
イスラム教徒を導く「カリフ制国家」を自称するイスラム国は、他宗教・宗派や、同じスンニ派でも自分たちと宗教観が違う者を「不信仰者」と断罪し、攻撃を正当化している。
古代ペルシャで生まれたゾロアスター教やイスラム教、キリスト教が混ざり合った教義を持つとされるヤジド派は、イスラム国にとって信仰上の「敵」であり、「ジハード(聖戦)」の対象というわけだ。
イスラム国は8月7日、クルド兵が防衛するモスル北郊のダムを占拠したとも宣言した。真偽は確認されていないが、事実ならイラクを南北に流れる大河チグリス川の要衝を押さえたことを意味し、イラク政府にとっては大きな打撃だ。
イスラム国は6月上旬、電撃的にモスルを制圧後、首都バグダッドに向けて進撃。最近は北部クルド人自治区にも矛先を向け、自治政府のあるアルビルをうかがう勢いをみせていた。
モスル制圧時にイラク軍が放棄した戦車や装甲車を保有しているほか、モスルの銀行などから大量の現金を強奪。これが国内外のジハード主義者を引きつけて勢力を拡大する要因ともなっている。(カイロ 大内清/SANKEI EXPRESS)