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脈々と受け継がれてきた「幻想に誘う」手法 「だまし絵II 進化するだまし絵」
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□「だまし絵II 進化するだまし絵 Visual DeceptionII Into the Future」
見る者の目を欺く絵画などを展示する「だまし絵II 進化するだまし絵 Visual DeceptionII Into the Future」が、Bunkamuraザ・ミュージアム(東京都渋谷区)で開かれている。だましの精神やテクニックは古代から脈々と受け継がれ、21世紀のデジタルアートにも生かされている。それは、絵画の本質が、“幻想”に誘う“だまし”であるからにほかならない。
「だまし絵」ってなんだろう。いや、見る者を“だまさない”絵ってあるのだろうか。スペインのアルタミラ洞窟に描かれた野牛の絵を思い浮かべれば、描いた人と見た人が大猟の「幻想」を分かち合い、狩りに出かけるエネルギーを沸き立たせたろう。幻想は美、愛、信仰、憎悪、狂気…。だまされたいからこそ、人は絵を見る。
クリストフェル・ピアーソン(1631~1714年)の「鷹狩道具のある壁龕(へきがん)」は17世紀に描かれたとみられるが、本当に壁にくりぬかれた壁龕のなかに、鳥かごや弓矢など狩りの道具が入っているように描かれている。
「本物のように描く」という“だまし”の技術は、とくに写真が発明される19世紀まで画家にとっての最大のセールスポイントだった。
ところが、20世紀以降、写真の真実味を逆利用した作品が登場してくる。フィリップ・ハルスマン(1906~79年)の「官能的な死」は、写真の左側にも収まっているシュールレアリスムの画家、サルバドル・ダリ(1904~89年)の素描に基づいて、写真家のフィリップが撮影した。ヌードが組み合わされた形は死の象徴・どくろに見える。
さらに現代の写真家では、杉本博司(1948~)がジオラマ・シリーズで、人形などを配置して、本物より本物らしい風景を撮った作品をつくる。路上にあふれるひび割れやきずあとを、さも作家自身が破壊したあとのように撮影する田中偉一郎(1974~)の「ストリート・デストロイヤー」も展示されている。
実物ではなく、鏡に映った像や影が主役になるアートも面白い。ラリー・ケイガン(1946~)のワイヤを使った彫刻は、一定の方向から光が当たったとたん、トカゲや蚊に“変身”する。
ダニエル・ローズィン(1961~)の「木の鏡」は、デジタル技術を駆使した。作品に人が近寄ると、デジタルカメラが近寄った人の凹凸をモーターに伝え、作品の表面に配置された木片784枚の角度をそれぞれ変える。木片は角度によって光を反射する強さが変わるため、まるで鏡のように、近寄った人の姿が映し出される。
ローズィン氏は8月8日、展示会場で、自分の作品について話した。「人の影を物(木)で表したいと思った。木を使うのは、美しい素材だから。普通の彫刻もつくるが、木を扱うのは大きな喜びだ」
今回の展覧会のために、パトリック・ヒューズ(1939~)は新作「広重とヒューズ」を出品した。画面は屏風のように波形になっていて、目の錯覚で凹凸が逆に見える。ヴィクトル・ヴァザルリ(1908~97年)の「BATTOR」も、とても画面が平面とは思えないふくらみを表現している。
2009年に開かれた1回目のだまし絵展では、東京、名古屋、神戸で75万人を集めた。来場者の中で目立ったのは、普段は美術館を訪れないといわれる若年層だったという。
前回のだまし絵展は、17世紀の作品や浮世絵など古典を中心に公開したが、今回は20世紀以降の“現代美術”が約8割を占めている。2次元と3次元を巧妙に描き、だまし絵で特に知られる版画家、マウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898~1972年)らもいるが、大半は普通のアーティストたちだ。展示は、本物そっくりに描く「トロンプルイユ」、遠近法を歪曲して描く「アナモルフォーズ」などだましの手法で分類し、4章に分かれている。
Bunkamuraザ・ミュージアムの宮澤政男チーフキュレーターは、「『進化』とつけたのは、何百年も前に発想されたものを、現代のテクノロジーで展開している作品があることを知ってほしかったから」と見どころを挙げる。
さらに「いわゆる『だまし絵』が描かれるのは、見て喜ぶ人がいるからだろう。普段は美術に親しまない人が、今回をきっかけに美術に親しみ、作家たちが本当に意図したところまで理解してくれるようになればいい」と話した。(原圭介/SANKEI EXPRESS)
■「だまし絵II 進化するだまし絵 Visual DeceptionII Into the Future」(フジテレビなど主催) 10月5日まで、Bunkamuraザ・ミュージアム(東京都渋谷区道玄坂2の24の1)。9月8日のみ休館。一般1500円。(電)03・5777・8600。