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【ウクライナ情勢】露正規軍侵入、プーチン大統領「形成逆転した」
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【ウクライナ情勢】親露派支配地域=2014年8月28日現在、※ロイターの資料を基に作成。※2014年3月18日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は首都モスクワのクレムリン(大統領府)での演説で、ウクライナ南部クリミア自治共和国と特別市セバストポリのロシア連邦への併合を宣言した。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(61)は8月29日未明、政府軍と親露派武装勢力の戦闘が続くウクライナ東部情勢についてビデオ声明を発表した。プーチン氏は、親露派が大きな戦果を挙げたのは明白だとし、包囲している政権側部隊の退去を認めるよう親露派に求めた。また、ウクライナ政府が軍事行動を停止し、「東部の代表者」との交渉につくよう要求した。親露派が形勢を逆転して優勢に立ったと強調し、停戦に向けたウクライナ政府との協議を有利に運ぶ狙いがあると考えられる。
主要都市部に囲い込まれていた親露派は28日、アゾフ海に面するノボアゾフスクを新たに掌握するなど、ここにきて戦線を拡大している。海上からの物資輸送を可能にするため、親露派は沿岸主要都市に照準を合わせている可能性がある。
プーチン氏は、ウクライナ東部について帝政時代の「新ロシア」という呼称を使用し、親露派武装勢力は「義勇軍」と称した。親露派勢力の幹部はプーチン氏の呼びかけに応じ、各地で包囲下にある政権側部隊が武器・弾薬を放棄するならば、撤退のための「人道回廊」を設けると述べた。
ロシア軍の正規部隊が戦闘に加わっているとの情報はますます信憑(しんぴょう)性を増している。ロイター通信は、東部ドネツク州内での1度の戦闘で100人以上のロシア兵が死亡したとする露大統領付属人権委員会メンバーの調査内容を伝えた。
28日開かれた国連安全保障理事会の緊急会合では、英国のマーク・ライアルグラント国連大使(58)が「ロシア正規軍がウクライナで活動を続けているという反論できない証拠がある」と追及。米国のサマンサ・パワー国連大使(43)も「火に油を注ぐ行為はやめよ。(ロシアの)仮面は剥がれた」などとロシアを非難した。(モスクワ 遠藤良介、ニューヨーク 黒沢潤/SANKEI EXPRESS)
≪秘密裏派兵 「国民に隠された戦争」≫
ウクライナ東部の戦闘にロシア軍の正規部隊が投入されている可能性が高まり、4月からの紛争は新たな段階を迎えた。プーチン露政権は軍の投入はおろか親露派への武器供与すら否定してきたため、国際的な信用失墜は決定的だ。戦闘で多数のロシア軍兵士が死亡しているとの情報も出ており、「国民に隠された戦争」が将来的に国内の反発を招く可能性もある。
露有力紙の独立新聞は8月29日、大統領付属人権委員会に兵士の親族から問い合わせが殺到しており、消息を絶った者は数百人にのぼると報じた。委員会のメンバーによれば、消息不明者の多くが露南部ロストフ州での演習に参加すると話していたという。
大統領付属人権委員会は著名な人権活動家らで構成され、プーチン政権とは複雑な関係にある。兵士や親族の聞き取り調査を行った委員会のメンバーは、2008年のグルジア紛争と同様の手法で兵士が投入されている可能性を指摘。当時、兵士らは国境付近の演習に参加する旨を口頭で伝えられ、身元を示す書類などは全て取り上げられていたという。
ロイター通信も28日、委員会のメンバーの話として、ウクライナ東部ドネツク州で弾薬を運搬していたロシア軍部隊が攻撃を受け、100人以上が死亡、約300人が負傷したと報じた。ウクライナの親露派組織幹部も先に、ロシア軍兵士らは「休暇」を取得してウクライナ政府軍との交戦に加わっていることを明らかにしていた。
ロシアではウクライナ政権や米欧を批判する「愛国ムード」が高まっており、プーチン政権が親露派を見捨てれば弱腰批判にさらされる。ここにきて親露派への武器供与だけでは戦況を好転させられなくなり、軍部隊を投入したとの見方が識者からは出ている。
3月のクリミア併合に先立ち、プーチン大統領は「軍は送っていない」と強調しながら、後になって派兵の事実を認めた。ウクライナ東部へのロシア軍投入が確実になった場合、プーチン政権に対する国際的反発が高まるのは必至だ。
影響力のある主要テレビ局は政権の統制下にあり、プーチン大統領の支持率は8割超の水準にある。国内で政権批判が急速に広がる可能性は高くない。ただ、自国兵士を秘密裏に戦場へ送り込む手法は、旧ソ連末期のアフガニスタン侵攻を想起させるとも指摘され始めている。(モスクワ 遠藤良介/SANKEI EXPRESS)