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科学
【取材最前線】何かいい知恵はないか
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栃木県塩谷郡塩谷町 東京電力福島第1原発事故で発生した放射性物質を含む指定廃棄物の最終処分場をめぐり、名水の小さな町が揺れている。
栃木県塩谷町の自慢は「全国名水百選」に選ばれている尚仁沢(しょうじんざわ)湧水。町のシンボル、高原山で最も高い峰、釈迦ケ岳(1795メートル)中腹から湧き出ており、水量も豊富。周辺は樹齢数百年の広葉樹の原生林で、遊歩道や親水公園を整備するなど湧水を生かしたまちづくりが進められている。
おいしい水としても評価されているが、知名度は高くなかった。その名が知られるようになったのは、7月末、栃木県の処分場候補地として、湧水群から4キロ離れた国有林が提示されてからだ。町内主要団体挙げて反対運動が展開され、8月31日には候補地選定撤回を求めて大規模な住民集会が開かれる。
栃木県の処分場候補地としては2012年9月、矢板市内の国有林が選ばれたが、市民の反対運動は激しく、政権交代を経て撤回された経緯がある。その後は、環境省と県内首長の会議で選定方法などについて自治体側の了承を得ながら進められてきた。だが、具体的な場所が提示されると、結局、2年前と同じ光景となった。
塩谷町の見形和久町長は当初、処分場受け入れ反対を表明しながらも環境省調査に関する協議は応じる姿勢を示していた。だが、(8月)25日に現地視察した井上信治環境副大臣との会談では、調査に関する住民説明会協力を拒否する姿勢に転じた。見形町長は「数人しか来なくても住民の了承を得たとして進められかねない」と警戒感を強める。
受け入れる側の不利益は、予想される農作物、観光への風評被害のほか、どういう形で出るか分からないし、対策や補償を含め国は自治体、住民に丁寧に説明しなければならない。それを拒否する相手でも、誠実な態度で接しないと、事態はさらにこじれていく。どの地域も歓迎しない施設である。ボタンのかけ違いでも慎重に進めても「プロセスに問題がある」と批判されるのかもしれない。
ただ、8000ベクレルを超える指定廃棄物は仮置き場での保管が続き、それはそれでより危険であり、最終処分場建設は急ぐべき課題。解決にはまだまだ時間がかかりそうだが、何かいい知恵はないか。(宇都宮支局 水野拓昌/SANKEI EXPRESS)