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【USA! USA!】(1) ボルダーの恵み 一皿に生かす
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自家農園「スリー・リーフ・ファーム」敷地内の水源地に立つラニー・マルティネリさん。農園は昨年9月にコロラド州を襲った大洪水で甚大な被害を受けたが、そのときに地下水の流れが変わったらしく、敷地内の低地に水が湧き出すようになった=2014年5月18日、米コロラド州ボルダー郊外(ディスカバー・アメリカ撮影) コロラド州の州都デンバーから自動車で約30分。標高1600メートルの山間に位置し、陸上選手の高地トレーニングで知られるボルダーは、岩峰フラッグスタッフ(2095メートル)を盟主とする自然保護区が市街地のすぐそばに広がる人口9万人の街だ。
ボルダー市は市街地の拡大と乱開発を抑制する政策を強力に進めてきた。この自然保護区も市当局が1998年に約32万平方メートルの土地を買い取り、保全しながら住民に公開してきたものだ。ボルダーの住民は、都市化の恩恵よりも、職住接近の暮らしに加え、朝夕に雄大な山岳公園を散歩する特権を選んだとでも言えるだろうか。
そんな空気がおいしい自然保護区の一角に、市内で指折りの人気を集めるレストラン「ダイニングホール・アンド・グリーン」がある。メニューに並ぶのは、グリルチキンやキッシュなど多くの米国人にとって身近な家庭料理がほとんどだ。オーガニックな素材をふんだんに使い、丁寧に調理することで、「子供の頃から慣れ親しんできた料理が、とてもおいしく食べられる」と評判なのだ。
人気店を経営するのは、ラニー・マルティネリさん(51)。ボルダー郊外に自家農園「スリー・リーフ・ファーム」を構え、野菜や卵などレストランで提供する有機食材を自分たちで生産している。
「レストランと農園にリサイクルの循環を持たせたいんだ」と、自分が目指すレストランの姿をこう語るマルティネリさんは、レストラン経営の中に自然志向とビジネスをうまく結びつけている敏腕経営者でもある。
≪食材循環を徹底 オーガニック志向に応える≫
レストランと農園のリサイクル循環を目指すラニー・マルティネリさん(51)の手法は徹底している。自家農園「スリー・リーフ・ファーム」では、レストランで出た生ゴミを回収して畑の一角で家畜の糞尿(ふんにょう)などと混ぜ、それをミミズやバクテリアによって分解して、良質な肥料によみがえらせる。化学肥料は使わない。世界各地でミツバチが減ってきたことが野菜の収穫にも影響していることを知り、養蜂場も併設した。
レストランで使う食材の百パーセント自給を目指しているが、現在の1.2ヘクタールの畑だけでは必要な食材をまかなえないので、近いうちに4ヘクタール分増やすという。
「こうした農法をやってみて、特に大切だと気づかされたのは、水だね。公共の水道はいろいろな処理がされているから、オーガニックな野菜を作るためには、自然の水がいい」。現在は敷地内に湧き出す水源のほか、近くの小川から自治体の許可を得て引水しているが、それでも足りないので、公共の上水道をさらに浄化して農作業に使っている。
米西海岸のサンフランシスコで生まれたマルティネリさんは、11歳のとき、両親に連れられてコロラド州に移住。ビート世代の詩人、アレン・ギンズバーグ(1926~97年)がチベット仏教の僧侶とともにボルダーに設立したナロパ大学に進学するため、学費を工面しようと大学近くにネイチャー志向のカフェをオープンさせたところ大評判になった。
「あのとき、飲食店経営のおもしろさに目覚めた。アイデア次第で、たくさんのひとに喜んでもらえる事業だと気づいたんだ」とマルティネリさんは話す。30歳のとき、妻のリサさんとともに念願のレストランをボルダーに開店。そこで提供する食材を自分で作りたくなり、農業を始めた。
農作業のパートナーは、サウスダコダ州の先住民居留区に生まれたジョセフ・デュセノーさん(41)だ。ニューヨークで低所得者層に新鮮な野菜を提供する非営利活動を行った経験を持つジョセフさんは「こういう循環型のビジネスを成立させることはなかなか難しい。それを成功させているのは、すばらしいよ」と笑顔で話した。
米国の食文化には「ファストフード天国」というイメージがあるが、オーガニック志向のレストランを好む消費者は着実に増えている。マルティネリさんが経営するレストランは現在、コロラド州だけでなく、テキサス州やメキシコなど7カ所で展開されている。これからも店舗を増やす計画だ。(ディスカバー・アメリカ編集部、写真も/SANKEI EXPRESS)
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