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「スパイ」騒動で中台首脳会談は棚上げへ
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台湾・台北市の総統府、立法院(国会に総統)
台湾で対中政策を主管する行政院大陸委員会の張顕耀前副主任委員(50)の「機密漏洩(ろうえい)」事件が、中台関係に影を落としている。馬英九総統(64)が政治任用した張氏が中台交渉の舞台から転落したことで「政治対話」への機運は薄れ、実務協議にも停滞感が出ている。台湾での報道に中国当局は不快感を表明。今年2月に浮上した11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)での中台首脳会談の可能性は、今や話題に上ることすらまれになっている。
張氏の事件は「政治捜査」と指摘されてもやむを得ない展開をたどった。張氏の「家庭の事情による辞任」が発表されたのは8月16日。張氏が「辞任を迫られた」と反論すると、大陸委員会は19日、法務部調査局に協力を求め、「安全保障上の機密漏洩」の疑いで捜査が始まった。主要紙が21日に、「中国のスパイ」疑惑を報じると、調査局はその日のうちに「外患罪」の適用を主管する台湾高等法院検察署(高検)と協議。だが、高検に適用できないと拒否され、捜査の指揮は台北地検に移った。
有力な容疑は、貿易協議の台湾側情報を知人を通じて中国に漏らしたというものだが、地検は28日に張氏から事情聴取しただけで、身柄は拘束していない。機密漏洩事件では、逮捕を経て発表とほぼ同時に起訴するのが常識とされる。このため、張氏の更迭は、直属の上司や馬総統の側近との関係悪化が原因で、「証拠不十分で不起訴になる」との観測も出ている。政権側が張氏に辞職後のポストとして公営企業の会長職を提示していたことも、こうした臆測の根拠になっている。
台湾での「スパイ疑惑」報道を受け、中国で台湾政策を主管する国務院台湾事務弁公室の報道官は22日に、「無責任で根拠のない臆測で両岸(中台)関係に負の影響をもたらさないよう望む」と不快感を表明。中国共産党の機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(電子版)も22日付社説で、事件を「馬英九当局の内部統制力の不足」と断じ、台湾内部の政治闘争だとの見方を示した。
中国側の反応に、台湾側は一転して火消しに転じた。大陸委員会や調査局は直ちに「中国のスパイだと言ったことはない」と報道を否定。対中交渉の窓口機関、海峡交流基金会(海基会)の林中森理事長(69)は25日、中台関係は「わずかな波乱で影響を受けない」と、事件の影響を否定。馬総統も28日、中台関係を大樹に例えた上で、「木に害虫がいるのを発見したら取り除かなければならない」と捜査に理解を求めた。
だが、張氏の失脚が、「わずかな波乱」に止まるとの見方は少ない。張氏は立法委員出身で、馬総統の政治任用で2012年2月、大陸委員会の副主任委員に就任。今年2月からは、海基会のナンバー2に当たる秘書長も兼任して政治・実務双方の調整役も務めてきた。
馬政権は8月末、海基会の女性副秘書長を張氏の後任に昇格させたが、この女性は昨年2月に海基会に入ったばかりで、報道では「新人」扱い。台湾の時事雑誌「壱週刊」は9月4日号で、今後の中台交渉は「一字一句に政治的意味が含まれる」ため、経験不足の人物では「重要な協議は達成できない」とする経験者の見方を紹介している。
中台間では今年2月に分断後初めての担当閣僚級協議が行われ、11月の北京APECでの中台首脳会談実現の可能性が取り沙汰されてきた。だが、台湾紙、聯合報は9月3日付の解説記事で、事件の影響もあり首脳会談は「破局したに等しい」と断じている。
中国の張志軍台湾事務弁公室主任(61)は3日、訪問先のワシントンで台湾メディアの取材に対し、APECでの再度の中台担当閣僚級協議は「可能性がある」と述べた。だが、首脳会談は質問にも上らなかったとみられ、関連の報道はなかった。(台北支局 田中靖人/SANKEI EXPRESS)