ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
国際
勝利宣言 台湾の学生ら議場退去 馬総統なお意欲 火種残す対中協定
更新
小笠原欣幸(よしゆき)・東京外国語大准教授(台湾政治)=2011年9月26日(田中靖人撮影) 台湾が中国と調印したサービス貿易協定に反発して立法院(国会に相当)議場を占拠していた台湾の学生らが4月10日夜、「一定の成果が得られた」として議場からの退去を完了した。3月18日から続いていた混乱は発生から3週間余りで正常化に向かったが、学生らは今後も、中国との協定を「非民主的な手続きで決まった、台湾に不利な協定」として警戒を続けていく構えだ。
王金平立法院長(73)=国会議長に相当=が(4月)6日、「両岸(中台)協議を監視する法案が成立するまで協定を再審議しない」と譲歩して退去が決まった。学生らは10日夜、“勝利宣言”となる人民議会意見書を議場内で発表。ただ、馬英九総統(63)が、中台協定監視法の制定前に協定審議を再開させるとの警戒感は強く、学生らの間には「次は総統府を包囲する」との強硬論もある。
学生らは馬総統が主席の与党、中国国民党が協定審議の打ち切りを決め、強行採決の構えを見せたことに反発して議場占拠を続けてきた。統一を目指す中国に対する警戒感から、政権を強く批判してきた。
これに対し、馬総統は10日、総統府を訪問した海外の台湾人企業家団体に、学生らの議場占拠について「正常な民主社会では受け入れられないことだ」と述べた。9日夜の米シンクタンクのテレビ会議では、台湾の貿易自由化の遅れに懸念を表明し、協定の議会承認に向けて「全力を尽くす」と語り、協定発効に向けた強い意欲を表明した。
一方、議場を占拠してきた学生らのリーダー、台湾大学大学院生、林飛帆氏(25)は10日、産経新聞のインタビューに応じ、「台湾と中国の関係は東アジア情勢に直結している。現在の台湾に何が起きているのか、日本や世界の友人は関心を持ち続けてほしい」と訴えた。
林氏は、台湾が中国との間で調印したサービス貿易協定を、将来の統一への布石として反発してきた。中台協定監視法の制定前に協定審議を行わないとする王金平立法院長の声明で矛を収めたが、林氏はインタビューで「成功と失敗が相半ばした」と占拠を総括した。馬総統が監視法と協定の「同時進行」の姿勢を崩さず、王氏の見解と異なっているからだ。
「運動は終わりではない」。林氏がこう強調したのは、2016年次期総統選を占う今年11月の統一地方選に向け、政権に揺さぶりをかける狙いからとみられる。最大野党、民主進歩党は運動を支持してきた。
協定を通じて中国が台湾への影響力を強めることへの懸念は根強く、最近の民放世論調査では65%が「運動は台湾の民主発展に寄与した」と好意的に評価した。馬氏は今後も困難な政権運営が予想される。(台北 吉村剛史/SANKEI EXPRESS)
≪「馬総統の焦りが引き金」≫
サービス貿易協定自体は利害が複雑に入り組み台湾側に有利な要素もあるので、簡単に「これで台湾がおしまいになる」と概括できるものではない。だが、関連業界への説明など準備工作が最初から足りなかった上、焦って協定の批准に突き進んだことが疑念を一層かき立てた。学生らは強烈なパフォーマンスによって、中国に呑(の)み込まれたくないという台湾人の感情を表出させることに成功した。
今回の事件によって、馬氏のAPEC出席の可能性は完全に消え、馬・習会談の可能性もほぼゼロになった。今後、中台間の実務協議は続くが、そのペースはスローダウンする可能性が高い。ただ、中国が統一工作の手を緩めるわけではないので、台湾内部では揺れが続くだろう。(談)
2014年
4月中? 中国の所管官庁トップが初訪台?
5月末 台湾の最大野党、民主進歩党の主席選
5月末? 台湾・立法院会期内に中台協定の監視法制定?
5月末? サービス貿易協定の承認審議終了?
秋 北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議
11月末 台湾で統一地方選
年内? 中台の物品貿易協定の交渉妥結?
2016年
前半 台湾で総統選