ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
科学
【Q&A】iPS細胞移植 目の難病治療 心臓、神経疾患にも
更新
iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った網膜の細胞の世界初の移植手術を終え、記者会見する理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの高橋政代プロジェクトリーダー(左)ら=2014年9月12日、兵庫県神戸市中央区(共同) 人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って目の病気の治療を目指す世界初の手術が12日に行われました。
Q iPS細胞とは
A 皮膚や血液などの細胞に、数種類の遺伝子を組み込んで、受精卵のように体のさまざまな細胞や組織になる能力を持たせた細胞です。培養条件を変えることで心臓や神経など目的の細胞に変化させることができます。2006年に京都大の山中伸弥教授が開発し、12年にノーベル賞を受賞しました。
Q 病気の治療に使えるの
A 目的の細胞にして患者に移植することで、病気や事故で傷んだ体の細胞や組織を修復する再生医療に利用できると期待されています。万能性を持つ細胞は受精卵から作ることもできますが、これをもとに作った細胞や組織を患者に移植した場合、敵とみなして攻撃する拒絶反応が起きてしまいます。iPS細胞は、患者本人の細胞から作れるため、拒絶反応の恐れがありません。
Q 今回はどんな手術だった
A 患者は「滲出型加齢黄斑変性」という目の難病を患っていました。光を受け取るのに重要な働きをする網膜が傷み、視野がゆがんだり、視力が落ちたりする病気です。理化学研究所などのチームは、患者の腕の皮膚細胞からiPS細胞を作り、網膜の細胞に成長させてシートをあらかじめ作っておきました。そして手術で網膜の異常部分を取り除き、そこにシートを移植しました。
Q 手術の目的は?
A 視野や視力が改善するか注目されますが、第一の目的は安全性の確認です。iPS細胞は、がんになりやすいのではないかという懸念があり、理化学研究所などの研究チームはがんを作るような異常が起きないか調べます。ほかの患者でも研究として手術を重ねる予定で、安全で効果があると確かめられれば、治療として普及する可能性があります。
Q iPS細胞で他の病気も治せるの
A 目の角膜の病気や、心不全、脊髄損傷によるまひなどを治す研究が進んでいますが、まだ動物実験の段階です。神経疾患のパーキンソン病については、京都大のチームが、15年にも人を対象にした研究を始める方針です。
≪安全性の調査が主な目的≫
今回の移植手術は、安全性を調べることを主な目的とする研究の一環であり、成果の確認はこれからだ。研究を主導する理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーは「普通の治療になるには10年以上かかる」との見方を示している。
高橋さんらはiPS細胞から作った細胞をマウスに移植する動物実験を繰り返し、腫瘍ができないことを確認してきた。しかし移植した組織が炎症を起こさないか、患者の体内で意図しない増殖をしないか、人間の患者で確かめなければ治療に結びつかない。症例の蓄積と丁寧な追跡、情報公開が重要となる。
今後は、視力回復が可能か、どんな患者なら効果が見込めるかといった評価のほか、組織の中にもともとある幹細胞を使った別の手法による再生医療と比べた安定性、費用面の検証も必須だ。
手術を担当した栗本康夫医師は12日の記者会見で「名人芸が必要な手術ではいけない」と指摘した。網膜の出血や剥離の危険性がある難易度の高い手術、扱いの難しい細胞シートなど、医療として普及する技術になるには、まだ改善点は多い。(SANKEI EXPRESS)