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日朝局長級協議 29日再開 拉致調査停滞 主導する保衛部孤立

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日朝局長級協議 29日再開 拉致調査停滞 主導する保衛部孤立

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7月1日に開かれた日朝局長級協議に臨む、外務省の伊原純一アジア大洋州局長(左手前から3人目)、北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使(右手前から3人目)=2014年、中国・首都北京市の北朝鮮大使館(共同)  岸田文雄外相(57)は24日夜(日本時間25日午前)、日本と北朝鮮の外務省局長級協議を中国・瀋陽で29日に開催すると発表した。局長級協議は7月1日の北京以来3カ月ぶり。北朝鮮が実施している拉致被害者らの再調査の初回報告が遅れた理由について、詳細な説明を求める。滞在中のニューヨークで記者団に語った。

 日本から外務省の伊原純一アジア大洋州局長(58)、北朝鮮から宋日昊(ソン・イルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使(59)が出席する。日本政府は再調査の進捗(しんちょく)状況を確認し、調査結果を早急に示すよう強く要求する。

 菅義偉(すが・よしひで)官房長官(65)は25日の記者会見で「(北朝鮮は)誠実に調査しているということだから、具体的にどんな調査をし、今どんな状況だとか日本の政府当局者がしっかりとただすのは当然のことだ」と強調した。

 北朝鮮は7月4日、日本が独自制裁を一部解除したのと同時に特別調査委員会を設置し、再調査を開始した。初回報告は当初、「夏の終わりから秋の始めくらい」とされたが、北朝鮮は9月18日、「現在はまだ初期段階だ」と報告の先送り方針を伝えてきた。

 日本政府はその後、北朝鮮に先送りの理由などの説明を求めてきたが、明確な回答は得られていない。岸田氏は「初回の通報に当たるものではない」と指摘し、「拉致被害者をはじめ、全ての日本人に関する包括的、全面的な調査を迅速に行い、結果を速やかに通報すべきだ」と訴えた。(ニューヨーク 峯匡孝/SANKEI EXPRESS

 ≪拉致調査停滞 主導する保衛部孤立≫

 北朝鮮による拉致被害者ら日本人に関する調査が8月以降、停滞をきたしていることが25日、複数の消息筋の話で分かった。調査を主導する秘密警察、国家安全保衛部が、相次ぐ要人失踪の責任を問われたり、利権争いに巻き込まれたりし、影響力が低下していると指摘される。日本側への初回調査報告を事実上、先延ばしした背景には、日朝交渉だけに集中できない北朝鮮の内部事情があるようだ。

 要人が相次ぎ失踪

 北朝鮮に残る日本人を調べる特別調査委員会が7月4日に設置される前後から、朝鮮籍の夫らと北朝鮮に渡った日本人妻らを主な対象にした調査が全国規模で始まった。

 日朝関係筋によると、7月末には、北部慈江道(チャガンド)の日本人妻と家族だけで約20人が平壌に集められるなどしが、8月に入ると、調査の動きが伝えられなくなった。「一段落したというより、パタリと止まった」(日朝関係筋)という。

 保衛部の事情に詳しい中朝関係者は「保衛部が深刻な批判にさらされ、日朝問題どころではなかったようだ」と説明する。

 6月以降、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記(31)の秘密資金を扱う朝鮮大聖銀行の首席代表が約500万ドル(約5億4000万円)を持ってロシア極東で第三国への亡命を打診したり、音楽系の著名大学教授が中国出張中に失踪したりするといった事件が続いたためだ。この教授は金第1書記の李雪主(リ・ソルジュ)夫人(24)の教師を務めたこともあるといわれる。

 保衛部は海外公館にも要員を派遣し、幹部らの亡命監視も担うが、相次ぐ要人失踪後、海外担当者が、朝鮮労働党や政府幹部の人事を握る党組織指導部によって平壌に召還された。保衛部内で海外工作を統括する徐大河(ソ・デハ)副部長まで責任追及に巻き込まれる事態ともなっているという。徐氏は特別調査委員長として日本人調査を取り仕切る人物だ。

 利権争い表面化

 政権ナンバー2だった張成沢(チャン・ソンテク)氏粛清後の利権争いの影響も指摘される。張氏処刑を実行し、日朝交渉も主導する保衛部は、対日利権を見越して外貨事業の拠点を拡大するなど、7月までは「飛ぶ鳥を落とす勢い」(日朝関係筋)とされた。

 だが、中朝関係者によると、張氏が握っていた多大な外貨利権をめぐって保衛部トップの金元弘(キム・ウォンホン)部長と黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長の対立が表面化。金部長側が押され、孤立状況にあるという。黄氏は金第1書記の最側近とされ、組織指導部出身なだけに、要人失踪を理由にした保衛部への締め付けは、この対立を反映している可能性がある。

 日朝関係筋は「日本側に譲歩すれば、さらに批判されかねず、調査報告をめぐって進展のあるまともな交渉ができずにいるのではないか」とみている。(桜井紀雄/SANKEI EXPRESS

 ■国家安全保衛部 北朝鮮の金正恩第1書記がトップを務める国防委員会直属の秘密警察。政治・思想犯や脱北者の摘発に加え、海外居住の幹部や拉致被害者ら国内の重要外国人の監視にも当たる。徐大河副部長が特別調査委員会の委員長を務めるなど、日本人調査を主導し、保衛部の局長や課長が外務省の伊原純一アジア大洋州局長らと海外で複数回接触するなど、水面下交渉を担ってきた。

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