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「言い訳しない」息苦しさを盛り込み 映画「不機嫌なママにメルシィ!」 ギョーム・ガリエンヌ監督インタビュー
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「役者とは年齢とともに進化していくもの」と語る、俳優のギョーム・ガリエンヌ監督=2014年9月3日、東京都新宿区(高橋天地撮影) 先日、日本で劇場公開された「イヴ・サンローラン」では、ファッションデザイナー、イヴ・サンローラン(1936~2008年)の公私にわたるパートナー、ピエール・ベルジェ役を熱演し、鮮烈な印象を残したギョーム・ガリエンヌ(42)。初めて監督を務めた新作コメディー「不機嫌なママにメルシィ!」では、脚本、主演にとどまらず、女装して主人公の母親役まで演じてみせた。
本作は、母親に女の子同然のように育てられたガリエンヌの半生をベースに描いた人気戯曲を映画化したものだ。フランスのアカデミー賞にあたるセザール賞では作品賞や主演男優賞など主要5部門を制覇し、興行的にも大ヒットを飛ばした。プロモーションで来日したガリエンヌは「作品で描いたエピソードのほとんどが本当に起きたことなんですよ。実際はもっと激しく、暴力的な内容でした。あからさまに映画で再現しなくても観客が理解できると思われる部分は表現を抑えました。面白いエピソードがたくさんあったので、選びだすのが大変でした」と振り返り、謎めいた笑みを浮かべた。
女の子が欲しかったママ(ガリエンヌ)のもとに生まれた3人兄弟の末っ子、ギョーム(ガリエンヌ)。エレガントなママに憧れて女の子のように育った彼は、父親(アンドレ・マルコン)から無理やり男子校の寄宿舎に入れられてしまう。だが、身のこなしが女の子っぽいギョームは男っ気ムンムンの寄宿生たちからいじめの対象となり、英国の学校へ転校せざるを得なくなった。今度は心穏やかに過ごせるかと思いきや、男子生徒を相手に大失恋。自分の人生はこれでいいのか? 疑問を抱いたギョームは自分探しの旅に出る。
ガリエンヌは、性別は男性でも心はすっかり女の子そのもの-という特殊事情ゆえの葛藤を、奇をてらって殊更に強調したかったわけではないという。「裕福なブルジョア階級に生まれた僕は幼い頃からさまざまな教育を受けてきました。その一つに『どんなにつらいことがあっても言い訳しない』という信条があります。彼らは愚痴も言わない。その辺の息苦しさも映画に盛り込みたかったわけです」。確かに作品に登場するギョームの父母は無駄口はきかないし、女性街道まっしぐらのギョームを目の当たりにした父親も、苦言をぽつりと漏らすといった程度のもの。「不機嫌なママ~」というタイトルもそんな事情を表現したものだろう。
能を大成した世阿弥(1363~1443年)に魅せられ、日本の能の舞台でパリ・オペラ座のエトワールを上演させたこともある。「役者の人生は単発の作品の中だけで終わってしまうものではない。ずっと役者の道は続いているんだ。準備と受容の繰り返しで役者の人生は形作られていく。年齢とともに進化していくものなのです」。世阿弥から学んだエッセンスだそうだ。六四分けのベルジェ、天然パーマのギョーム、貫禄たっぷりの金髪ママ…。どうしても彼が醸し出す女性性と外見の進化ばかりに目を奪われがちではあるが、内面の進化も相当なものなのだろう。9月27日から東京・新宿武蔵野館などで全国順次公開。(高橋天地(たかくに)、写真も/SANKEI EXPRESS)
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