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人生の残り考え「思い切った実験した」 舞台「社長吸血記」 ケラリーノ・サンドロヴィッチさんインタビュー
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「今回は実験的な作品」と話す、演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチさん。大ファンというウディ・アレンを描いたシャツを着て=2014年9月9日、東京都世田谷区(藤沢志穂子撮影) ホラーかと思わせるタイトルだが、吸血鬼が登場するわけではない。小劇場シーンのトップを走るケラリーノ・サンドロヴィッチ(51)、9月26日に初日を迎えた2年ぶりの新作はサラリーマン喜劇。社長を「血を吸うような権力者」に見たて、その社長が行方不明になったことで起こる騒動を描く。登場人物は多面的でとらえどころがないようにも見え、「これまでと比べると、飛び抜けて不親切で奇妙な作品」と話す。昨年50歳を迎え、人生の残り時間を考えた上で「思い切った実験をした」という。
モチーフは、東宝が1950年代から70年代にかけて制作したサラリーマン喜劇の映画「社長シリーズ」。社長役の森繁久弥を軸に、加東大介と小林桂樹のトリオが繰り広げる「大人の艶笑コメディー」として人気を博した。ケラリーノは中学生時代に名画座に通い、昭和の時代の娯楽映画を大量に見ていた。だが植木等がヒラ社員を演じる「無責任シリーズ」などに夢中で、「社長シリーズは理解できなかった」と振り返る。
再び注目したのは最近、自宅でCS放送の映画専門チャンネルなどを見るようになってから。「いまになって面白さが理解できて、森繁さんのうまさにも改めて驚いた。新作のタイトルを『社長ナンとか記』にしようと考えた」と笑う。
ただ新作は「社長シリーズ」を翻訳したものではない。登場人物は多面的でとらえどころがないようにも見える。「思い切った実験」の背景は、本当の人間像は、通常の舞台でキャラクターを浮き彫りにするように分かりやすいものではないと、示すことを狙ったともいえる。
「ドキュメンタリーではカットできない大切なシーンで、そこにいる人がたまたま何か言っちゃうことがある。『あれって何だったんだろう』と。よく分からなくても、遊びのようなことがあってもいい。だから今回の作品は不条理劇風なシーンと、リアリスティックなシーンが交互に現れる。文体も変えたし、笑いの質も変わる。見る人の数だけ答えがあった方が面白い。好きに感じてくれれば」
キャスティングは「直感と縁で決めた」。女優の鈴木杏(あん、27)とお笑いコンビのかもめんたるがケラリーノ作品に初参加。OL役の鈴木は「『この人どういう人?』って思われそうな難しい役」。かもめんたるの岩崎う大(36)と槙尾ユウスケ(33)は社員役で本格的な演劇に初挑戦。「岩崎君は何かやらかしそうで結局やらない役で、その気配は十分。2人とも奇妙な味わいがある」
全体に通じるのは、社会の片隅で生きる小市民たちへのエール。「こんな風に生きている人を書いてみた。それでも生きていかなきゃいけない。頑張って生きていこうと思ってもらえれば」
50歳を迎え、いろいろなことに思いをはせるようになった。「僕の父も祖父も50代で亡くなった。仮に『あと10年』として、その間に何ができるかを考えたら、どんなにお客さんが喜んでくれるとしても、いままでやってきたことの二番煎じはしたくない。失敗してもいいから、やっていないことをやりたい」
来年は2月から3月にかけてチェーホフの「三人姉妹」の上演が決まっており、その後に4カ月の休暇を取るつもりだ。「これまで忙しすぎて、演劇や映画を見に行けなくなっていた。人生の残り時間を考えたらもっと勉強しないと。若い人たちの演劇も見て刺激を受けたいと思っている」(藤沢志穂子、写真も/SANKEI EXPRESS)
上演中、2014年10月19日まで本多劇場(東京都世田谷区北沢2の10の15)。 問い合わせはキューブ(電)03・5485・2252。10月25、26日 北九州芸術劇場中劇場、10月28、29日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ。11月1、2日 りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館劇場