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【河瀬直美のNARAtiveワールド】なら国際映画祭の収穫
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今年も映画祭の責任者としてリーダーシップを発揮した河瀬直美監督=2014年9月12日、奈良県奈良市春日野町(組画提供) 第3回を迎える「なら国際映画祭」(9月12~15日)。今年は奈良県新公会堂(奈良市春日野町)の玄関口をレッドカーペットにしつらえ、世界からのお客様をお迎えした。秋晴れの澄み渡った青い空のもと、真っ赤なレッドカーペットが映えていた。奈良公園の青い芝。公会堂の屋根の向こうには若草山。左を向けば東大寺本殿の黄金の鴟尾(しび)が、右を向けば春日大社の森が覆う神聖な空間が広がる敷地で、まだ生まれたての新しい祭典を執り行うことができたのも、地元の皆様のご理解と奈良の持つおもてなしの心の表れだろうと感謝の気持ちでいっぱいだ。
こうした思いを代弁するように、今年の映画祭を振り返ってみると、2年前のそれよりも大層好評でお褒めの言葉をいただいている。こうして続けてゆく新しい祭典が奈良の歴史のように1000年続いてゆきますように。そんな思いを込めて、4日間の会期を振り返りたいと思う。
前夜祭を世界遺産「元興寺」(奈良市中院町)の境内で開催できたことで、この映画祭がいかにユニークで、よそにないものであるかをアピールできたと思っている。
審査委員長のスイス人、ルチアーノ・リゴリーニさんは「アメージング」を繰り返した。秋の夕暮れ。天平の甍(いらか)が乗る本堂横の庫裏の縁側に現れたのは松田美由紀さんとチェロ奏者の坂本弘道さん。夫である松田優作さん(1949~89年)を亡くして3人の子供とともに生きる日々をつづったエッセイを朗読していただいた。「子宮の言葉」と題したそれは、日本語のわからない海外のゲストたちにも大変心に響いたようだった。「言葉がまるで音楽のようだった」とはルチアーノさん。虫の声、月の光、ろうそくの灯が「命」の本質に思いを巡らせる役割を担っていた。奇しくも元興寺に現存する数多くのお地蔵様はサンスクリット語で「子宮」を意味するそうだ。そんなご縁にも感謝した。
明けて12日はレッドカーペット。獅子舞に先頭を歩いてもらって露払い。次々とそこを歩く世界からのゲストとレッドカーペットクラブサポーターのみなさん。ハレの舞台はしつらえられ、能楽堂での映画上映はことのほか趣があってよかった。奈良公園に隣接した庭園でのオープニングパーティーでは和太鼓の披露から始まって、鏡割り、餅つき、と日本のお祝いには欠かせないイベントが盛りだくさんで会場はにぎわった。
今年のコンペ作品はアジアからの作品が多かった。また女性監督が8作品中3作品と健闘した。訪れた観客からは作品の質が高いと評価をいただき、結果、観客賞には「おみおくりの作法」(ウベルト・パゾリーニ監督)。こちらは年明けに日本の公開が決まっているのでぜひ劇場で見ていただきたい。そして栄えあるゴールデン鹿賞には「The Night」が輝いた。この作品の監督は弱冠22歳の中国人大学生、ジョウ・ハオ氏でこれからを大いに期待された。来年1年かけて完成する奈良を舞台にした映画づくり、ナラティブプロジェクトの監督に就任してもらう。今年度いっぱいかけてロケ地を選定してゆく予定だ。
来年再来年にかけて式年造替(しきねんぞうたい)を迎える世界遺産の春日大社(奈良市春日野町)では感謝・共生の館にて「四つのいのち」(2010年、イタリア・ドイツ・スイス合作、ミケランジェロ・フランマルティーノ監督)の上映と、上映後には本殿横の回廊に光を入れていただく奉納上映会を行うことができた。これらの上映料はすべて造替への寄進とさせていただく。闇に照らされる炎の向こうに1000年続いてきた祈りの場とそれらを守ってきた先人の知恵を思った。
こうしてあっと言う間に4日間に及ぶ第3回なら国際映画祭は無事閉幕。再来年2016年への一歩を踏み出した。自らの手のひらに乗るだけの「愛」を精いっぱい深く強く握りしめながら、またの再会をここ奈良の地で待ち望んでいる。(奄美観光大使、映画監督 河瀬直美/SANKEI EXPRESS)
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