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【RE-DESIGN ニッポン】吉野の恵みが生み出す「1000年和紙」

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【RE-DESIGN ニッポン】吉野の恵みが生み出す「1000年和紙」

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一つ一つ手作業で白楮についた傷や汚れを取り除く作業。福西和紙本舗では、家族総出で行なっている=2014年1月28日(提供写真)  私の出身地である奈良県の南部に位置する吉野。この地は修験道の聖地として人々の信仰を集め続け、世界遺産にも登録された。金峯山寺のある吉野山を中心とした信仰と山の恵みを大切にする生活文化が根付いている。「RE-DESIGN ニッポン」の第3回は、そんな山の恵みから生まれる伝統的なものづくりの一つ、「和紙」を取り上げたい。

 妥協しない古来の製法

 吉野の国栖(くず)地方は古事記にもその名が出てくるほど由緒ある土地で、現在は手漉き和紙の里としても知られる。その手漉き和紙の伝統を受け継ぐ工房の一つが福西和紙本舗。屋号は「福寅」である。さまざまな種類の和紙を製造しているが、最も知られているのが「大和宇陀紙」だ。古来の製法で生み出される和紙の一種で、日本の文化財の修復紙や掛け軸の総裏打ち紙、さらにヨーロッパの文化財の修復にも用いられている。

 数百年から1000年にわたって受け継がれてきた文化財の修復に使われる紙なので、5代目の福西弘行さん(選定保存技術保持者)、6代目の福西正行さんは「1000年持つ和紙を作る」ための妥協しないモノづくりを行っている。

 品質左右する水と空気

 これほど高品質の和紙を作るためには、「吉野の水と空気で漉く」というくらい、吉野の風土が欠かせない。

 福西和紙本舗では、まず材料である楮(こうぞ)そのものを自分たちの畑で育てている。そして刈り取った楮を蒸し、皮を剥いだ「白楮」を洗って天日干しし、2年間貯蔵して繊維を密にする。そして、吉野川の水で晒すことで楮の不純物を取り除くとともに繊維を固める。そして細かな汚れを手作業で一つ一つ取り除いた上で、草木の灰汁で煮て繊維を柔らかくする。工業的な和紙生産では苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)で煮ることが多いが、そうした手法はとらない。

 灰汁を洗い流し、繊維を樫の棒で打って柔らかくし、うつぎの木の樹皮からとった「ねり」(粘剤)を入れて紙を漉く。そして圧搾して水を絞り、天日干ししてやっと完成だ。「1000年」持たせるために、手間ひまをいとわない工程と自然素材にこだわっている。

 工程をみてもわかるが、和紙生産では大量の水を使用する。吉野の山々に降り注ぐ大量の雨は、豊かな森林で磨き上げられて軟質の美しい水となり、和紙生産を支えているのだ。すがすがしい空気の寒暖の変化、湿度の変化を読みきって、天日干しなどを行う。まさに吉野の自然が和紙を作っているのだ。

 風土と一体のものづくり

 吉野では江戸時代から続く「山守」という独特の森林管理制度があり、長期にわたって「育林」を行い、持続可能な山林育成を行ってきた。この山林育成のおかげで良質な木材が採れるだけでなく、美しい水が磨かれ、和紙作りを支えてきた。まさに吉野は山とともに生きており、ここにしかない風土の中でモノづくりが育まれている。

 福西和紙本舗の宇陀紙は最近、文化財修復以外にも、海外でアートや建築用に用いられることが増えてきているという。日本各地で受け継がれてきた自然と一体化した生活と、そこで育まれている独自のモノづくりには、世界に通用する価値が眠っているのだ。(COS KYOTO代表 北林功/SANKEI EXPRESS

 ■きたばやし・いさお 1979年奈良県生まれ。現代に受け継がれる多様な素材や技術、人を「京都」の感性で融合し、発信する「COS KYOTO」代表。「TEDxKyoto」ディレクター。「宇陀紙」をはじめとする和紙は、COS KYOTOショールーム(京都市北区紫野上柏野町10の1)でサンプルを展示している。HP:cos-kyoto.com

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