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【RE-DESIGN ニッポン】「買える骨董品」肥前吉田焼

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【RE-DESIGN ニッポン】「買える骨董品」肥前吉田焼

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肥前吉田焼の水玉食器を手がける副島謙一さん。日本中で使われてきた水玉食器の生産を現在でも続けるたった一人の職人だ=2013年12月18日、佐賀県嬉野市・吉田地区(中島光行さん撮影)  日本各地には、独自の風土や歴史の中で育まれてきた生活文化がある。有名ではなくても、日用品として愛でられ続ける道具や雑器を生み出している産地は多い。ただ、地元で消費されてきたために、世間にはあまり知られてこなかっただけだ。私たちCOS KYOTOは、そうした各地の良品を発掘し、文化や歴史背景、作り手の思い、素材や技術を紹介しながら、現代の生活にあった形で改めて世の中に提案することを目指している。この連載では、そんな私たちの試みについて、月に一度、お伝えしていきたい。

 水玉作る唯一の職人

 水玉模様の食器は、それを手に取った日本人の多くが思わず「懐かしい…」という言葉を漏らしてしまうほど、日常の暮らしに溶け込んできた磁器だ。飽きのこないデザイン、そして自然と指になじむ微妙なへこみ。デザインと機能性が融合された見事な食器である。

 産地である佐賀県嬉野(うれしの)市吉田地区は、磁器生産が始まって400年の歴史を持ち、当初から日用品として使われる食器を作ってきた。それは肥前吉田焼(ひぜんよしだやき)と呼ばれ、現在も地元の嬉野温泉の旅館などに出荷されている。そのなかでも水玉食器は高度成長期に大量に生産され、大衆的な食器として日本全国の家庭や飲食店で使われてきた。

 しかし、初めて吉田地区を訪れた際、私たちは衝撃を受けた。水玉食器の作り手は現在、たった一人の職人、副島謙一さん(42)だけだったからだ。作業場をみせてもらって、その理由がわかった。水玉模様は一つ一つ手作業で削って作られていたのである。しかも素焼きを終えた食器に、正確かつ美しく模様をつけていくためには、かなりの腕力が求められる。副島さんの体格がやたら良いのは、このためでもあった。こうした丁寧な手作業は、大量生産が広がる中で次第に敬遠されていったのだ。

 副島さんは、そんな中でも水玉食器にこだわって作り続けてきた。意地もあった。最も大切にしてきたのは、「買える骨董品」というイメージだという。ちょっと古臭さもあるが、今の日常生活にも対応できるもの。このためにお客さんとの対話を重ねながら、デザインなども少しずつ改良を重ねてきた。この結果、水玉模様の食器は近年再び注目を集めるようになり、2010年にはグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した。デザイナーと組んでの受賞ではなく、職人の地道な製品改良が受賞につながったことにも注目したいと思う。

 共感、朱色への挑戦

 COS KYOTOでは、そんな副島さんとともに新たな挑戦に取り組んだ。400年間、伝統的な染付の技法を使った青色が主流であった水玉食器に、朱色を新たに加えたのである。もともとの発想は単純だった。青色の食器とセットで喜んでもらえるものが作りたい。日本人の日常に新風を吹き込みたい。そういった思いだった。

 だが、下絵による赤色は安定的に発色しない。そのことを知り尽くしている副島さんはなかなか首を縦に振らなかった。その一方で、副島さんは長年、お客さんに喜んでもらいたいという気持ちで水玉食器を作り続けてきた職人でもある。飲み明かし、語り明かすうちに、朱色の水玉食器を作るために力を合わせることになった。職人の心意気と京都で育まれた私たちの感性が通じ合った。

 それから何度もやりとりを繰り返した末、朱色の水玉に彩られた急須と湯呑みができあがった。後日、なぜ一緒に取り組んでくれたのか副島さんに尋ねたところ、意外な答えが返ってきた。互いに共感したこともあるが、「現地まで来た」ことが大きかったというのだ。

 現地に足を運び、技術や素材、歴史背景、そして人を知り、生活文化の本質を理解することは私たちのモノづくりの基本であるし、何よりも楽しい時間だ。ところが、現在の日本のモノづくりには、そんな部分が欠落していることが多いのかもしれない。この連載では、現地を訪ね、その生活文化を知ることの楽しさをお伝えしたい。(「COS KYOTO」代表 北林功(いさお)/SANKEI EXPRESS

 ■北林功(きたばやし・いさお) 1979年奈良県生まれ。現代に受け継がれてきた多様な素材や技術、人を「京都」の感性で融合し、発信する「COS KYOTO」代表。「TEDxKyoto」ディレクター。

HP:cos-kyoto.com。COS KYOTOショールーム:京都市北区紫野上柏野町10の1

 ■染付 そめつけ。磁器の加飾技法の一つで、白地に青(藍色)で文様を表したもの。磁器に釉薬(ゆうやく)を掛ける前の素地に文様を描く釉下彩(ゆうかさい)技法の一つ。呉須(ごす)と呼ばれるコバルトを主成分とする絵具が使われる。

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