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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】「廃材」と「福祉」 2つの問題を解く先端モデル(6-2)

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【だから人間は滅びない-天童荒太、つなげる現場へ-】「廃材」と「福祉」 2つの問題を解く先端モデル(6-2)

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作家、天童荒太(てんどう・あらた)さん=2014年2月12日午後、東京都千代田区(宮崎裕士撮影)  天童荒太さん(以下天童) 廃棄物とハンデを持っている方の雇用の問題。世界にとって大事な問題だと個人的にも考えていたところ、この2つをつなげ新しい仕事にしている人がいるというのは大きな驚きでした。まず、「NEWSED PROJECT(以下NP)」(※1)の理念を教えていただけますか。

 かっこいいものを作る

 青山雄二さん(以下青山) NPは、「古くなったものを新たな視点でみることで、別の新しいものとしてよみがえらせる」というブランドコンセプトが一番の根幹です。

 最初は「なんかいい廃材ないかな」と探していたんですが、一個商品ができると、どんどん「いろんな廃材あるよ」と声をかけていただける。今、日本全国から、本当は捨てたくないけれど、企業が経済活動をする中でどうしても捨てざるを得ないものが集まってきている。その中から、商品として再び世に出せる魅力のある廃材…素材を抽出しています。

 現在扱っている素材は、髪留めやボタンを作るときに出るアクリル素材の余りや、珍しいところでは東京ドームの天井などに使われるテント生地。学習塾の机や椅子の天板などもあります。机なんて、落書きだったり、すごく面白いストーリーを持っている。それをどう生かすか。そのままではマイナスでしかない廃材を、どうプラスにとらえるか。

 天童 きっかけは。

 青山 廃材を素材として扱うということを、スイスのフライターグ(※2)だったり、いろんな人がやっている。それを見て、このスキームはもっといけると直感的に思いました。

 天童 なぜ生活雑貨にしようと?

 青山 使えないオブジェのようなものではなく、実際の生活の中で廃材が生かされることに価値があると思っています。そして、廃材だからといって安く買われるのではなくて、デザイン的なクオリティーも確保するためにデザイナーに依頼して、提案してもらっています。

 天童 廃材だから安く、ではなくて、そこから一歩違うステージに飛ばないと意味がない、と。

 青山 廃材だからこそ、逆にかっこいいものを作りたかった。安いものをいっぱい作るより、高くてかっこいいものを。ニューヨーク近代美術館(※3)に入れたいとか、そういう思いで始めました。それは今も変わらない。

 要は、かっこいいもの好きじゃないですか、みんな。東京都現代美術館とか六本木ヒルズとかに売ってるのと、近所のスーパーに売っているのでは違う。かっこいいと思われる店で販売することで、ブランドとしての影響力が増し、次のフェーズにいける。苦労するかもしれないけれど、まずは上を目指そうと。それは、僕らとブランドのデザインディレクターで話し合って決めた戦略ですね。

 何百万のマンパワー

 天童 そうした戦略のもと、製品の作り手になぜ「地域作業所 hana(以下ハナ)」(※4)を選んだんですか?

 青山 ハナさんしかいなかったからです。当時、他の作業所の方ともやりとりしてたんですけど、ちょっと絶望的な感じだった。どう僕らが工夫しても、壁があった。こっちから情熱を注いでも、温度差が結構あって。向こうは10個作ればいいや、って思ってるけど、僕らは100個作ってほしい。そういうのが往々にしてありました。

 要は、作業所の支援員さんは、がんばっても自分たちにはメリットがない。もともとチラシとかおしめを折っていたところに、僕らは新聞バッグという15工程もあるようなものを持って行く。当然、できる人もいればできない人もいる。できない人のフォローを誰がするの、となると支援員。面倒くさいことをクリアしても、支援員の給料は変わらない。そこに全ての根っこがある。

 天童 それはとても大切な話だと思います。話を少し戻しますが、なぜ、作業所と組もうと思ったのでしょうか。

 青山 社員研修の一環で福祉作業所を訪れたとき、「工場だな」って思ったんです。マンパワーがある場所だと思いました。こういうのが全国に7000カ所ある。僕はそこで、勝手にくくったわけです。何百万人もいるマンパワーってすごいって(※5)

 天童 でも、そう思ったとしても、仕事をするとなると、どうしても納期までにきちんと上がってくるかとか、リスクがあるはずで、なぜそこであえて。

 青山 これは後から感じたことなんですけど、ただ仕事を発注するだけじゃないよさってありますよね。行ったら声かけてもらったり、ボールペンくれたり。呼び捨てにされたり。ビジネスライクとは違う、人と人とがつながれる、気持ちの部分がある。手紙もらったりしたら、うれしいですよね。(取材・文:塩塚夢/撮影:瀧誠四郎、宮崎裕士/SANKEI EXPRESS (動画))

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(※1)NEWSED PROJECT ネーミングは、「NEW」と「USED」を組み合わせることに由来。「NEWSED」の初年度売り上げは約150万円だったが、昨年(2013年)度は約2000万円に成長した。理事は「ケンエレファント」の石山健三社長。(電)03・5259・5374

(※2)フライターグ スイスのチューリヒにあるブランド。トラックの幌を利用してかばんや財布、サッカーボールなどを製作している。

(※3)ニューヨーク近代美術館 米ニューヨークにある近現代美術専門の美術館。通称「MoMA」。それまで美術品と見られてこなかった工業製品なども収集・展示している。

(※4)地域作業所ha NPO法人「コミュニティワークス」が運営する通所型の福祉作業所。1日の作業所の定員は20人で、現在約60人が利用登録している。

(※5)障害者総数 2013年度の内閣府障害者白書によると、障害者数は、身体障害者366.3万人、知的障害者54.7万人、精神障害者320.1万人。およそ国民の6%が何らかの障害を有していることになる。

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