SankeiBiz for mobile

ルーブル安ショック 直撃するロシアの冬

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの国際

ルーブル安ショック 直撃するロシアの冬

更新

ルーブル相場の推移(対ドル)=2012年~2014年10月20日  【国際情勢分析】

 ロシアの通貨ルーブルの下落が止まらない。10月6日に対ドルレートで史上初の40ルーブル台を記録。その後も1998年のデノミネーション(通貨呼称単位の変更)以来の最安値を断続的に更新している。ウクライナ情勢をめぐり、欧米との制裁合戦を繰り広げる中で、通貨安ショックがプーチン政権の苦境に拍車をかけている。

 平均物価は10%上昇

 ロシア中央銀行が豊富な外貨準備高を元に数十億ドル規模で為替市場で介入し、ルーブルを買い支えているが、市場の圧力が弱まる兆候は見られない。露紙ベドモスチは9日付で、1ドル=40ルーブル台はロシア人の不安を呼び起こす心理的な水準と考えられる、とする金融アナリストの声を紹介。一線を越えたことで、「住民の外貨買いを刺激する可能性がある」と指摘する。

 10月10日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、「蓄えを持っている人々はルーブルに対する幻想を捨て、自分たちのお金を守ろうとしている」とする匿名の露大手銀行幹部の話を取り上げている。実際、この銀行では、顧客が訪れ、数万から数十万単位でドルを購入しているという。今後、ルーブルがさらに下落し、資産が目減りする前の防御策を打っているのだ。

 一方で、貯蓄する慣習のない一般ロシア人が恐れているのは、ルーブル安よりもインフレだ。

 もともと高品質の生活物資は欧州などからの輸入品に頼っている状況にある。8月、プーチン政権は対露制裁の報復措置として肉や魚、穀物などの欧州産の食料品を輸入禁止にした。品薄状態となったところに、ルーブル安が直撃し、平均物価は10%ほど上がった。

 背景に原油価格下落

 インフレの長期化はロシア社会に、混迷を極めたソ連崩壊後の悪夢を思い起こさせる。

 10月9日付の露紙独立新聞はインフレは冬に深刻さを増し、「住民の買い控えを引き起こす」と指摘。すでに、人々の余暇への出費は抑制され、旅行会社の倒産が相次いでいるという。ロシア市場で展開する日本の自動車メーカーの駐在員もルーブル安の影響を輸入車の価格に転化せざるを得ず、「もう商売にならない」と嘆いている。

 8月からの急激なルーブル安はウクライナ情勢をめぐる欧米との摩擦激化よりも、ロシアの収入源である原油価格下落による先行き不安の方が、影響が大きいとの分析がある。中国などでの景気減速による世界的な需要の伸び悩みが原因で、原油価格の国際指標である北海ブレント原油の先物価格は1バレル=80台ドル前半まで落ち込んだ。

 ロシア政府は1バレル=105ドル前後を1つの軸として国家予算を組んでおり、原油価格の落ち込みで、政権が地方活性化と求心力維持のために組んだ“ばらまき”大型プロジェクトは修正を余儀なくされている。

 政権内部対立も激化

 財政支出をめぐる内部対立も激しさを増してきた。リベラル派は、差し迫る危機に幾度となく警告を発している。

 中銀出身のアレクセイ・ウリュカエフ経済発展相(58)は「ロシア経済の状態は『悪い』と『最も悪い』の中間にある」と指摘。ウラジーミル・プーチン大統領(62)に近いアレクセイ・クドリン前財務相(54)も、経済停滞と物価上昇が同時に進行するスタグフレーションが「少なくとも3年、4年続く」と予想し、欧米への対抗意識から軍事予算を確保したい保守強硬派を牽制(けんせい)する。

 露英字紙モスクワ・タイムズは、3月のクリミア併合を主導した「拡張主義者の政策は経済的な現実から乖離(かいり)している」と指摘する。クリミア半島では日本円で数兆円規模を出費し、インフラ整備や海峡にかかる橋の建設などが予定されており、経済低迷を迎える中で、クレムリンが打ち出した政策が正しいかどうかが問われることになりそうだ。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

ランキング