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「リコノミクス」不発 改革失速も

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「リコノミクス」不発 改革失速も

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中国GDP成長率の推移<2009年「1~3月期」~2014年「7~9月期」>=2014年10月21日、中国国家統計局発表  ≪中国GDP7.3%増 5年半ぶり低水準 7~9月期≫

 中国国家統計局は21日、2014年7~9月期の実質国内総生産(GDP、速報値)が前年同期比7.3%増だったと発表した。リーマン・ショックの影響により成長が落ち込んだ09年1~3月期の6.6%増以来、5年半ぶりの低水準を記録した。不動産市況の悪化が主因。新興国の筆頭格、中国の景気鈍化は世界経済全体に影響を及ぼすだけに、景気下支えに向け習近平指導部の手腕が問われる。

 不動産市況悪化のほか、政府が進める構造改革で鉄鋼、セメントをはじめとした生産過剰に陥った業種の工場閉鎖に取り組んでいることも響いたとみられる。

 成長率は今年4~6月期の7.5%を割り込み、1~9月期は7.4%となった。政府が掲げる通年の成長率目標7.5%を下回っている。

 統計局の盛来運報道官は「不動産の調整が生産や消費、投資に影響した」と指摘。雇用や物価情勢は安定しているとして「成長率は下落したものの、経済は合理的な範囲内にある」と強調した。

 1~9月期の統計をみると、住宅の販売面積と新規着工面積が、それぞれ前年同期比で2桁の減少となった。不動産開発投資の伸びは12.5%で、1~6月期の14.1%から減速した。

 1~9月期は建設や企業の設備投資を含む固定資産投資の伸びが16.1%と、1~6月期の17.3%から落ち込んだ。工業生産は8.5%増と、1~6月期の8.8%増から鈍化した。

 日本と欧州の景気が精彩を欠き、中国経済が失速すれば、世界経済は一段と不安定になるのは必至。ただ、成長率よりも構造改革を優先するのが習指導部の大方針だ。

 政府は中小企業や農業従事者向けの資金繰りを支援するため部分的な金融緩和を実施するなど断続的に景気下支え策を打ち出している。経済過熱を避けるため、大規模な景気刺激策の実施には慎重な姿勢だ。(北京 共同/SANKEI EXPRESS

 ≪「リコノミクス」不発 改革失速も≫

 中国のGDP成長率が減速した背景には、習近平政権が成長の「量」よりも、シャドーバンキング退治など構造改革を優先させる「質」の追求に軸足を移したことがあるとみられる。

 深刻な大気汚染など、環境問題を含む数多くのひずみを生んだ年率10%前後の高度経済成長からのソフトランディング(軟着陸)の過程で、一定の減速は想定内だった。中国政府が社会安定のため最重要と考える雇用問題も安定感を保っているとの認識で、多少の成長鈍化は容認する構えだ。

 しかし、市場独占体質を色濃く残す国有企業の「改革」を打ち出した李克強(り・こくきょう)首相(59)の経済政策「リコノミクス」は道半ば。高止まりから下落に転じた不動産市況の悪化が経済成長の足を引っ張る速度が、既得権益層の抵抗に阻まれて進まない構造改革を追い越してしまえば、中国経済は成長も改革もいずれも失速する厳しい現実に直面しそうだ。

 アクセルとブレーキ、ギアチェンジに、助手席の同乗者の顔色うかがいと、気配りせねばならない経済運営の“矛盾”が軟着陸の過程で噴出した。中でも最大の課題は不動産市況とシャドーバンキングだろう。

 リコノミクスでは、金融監督当局の目の届かないグレーな融資が不良債権の山となって金融危機を招かないよう改革を急ぐはずだった。だが、融資規制が不動産市況の悪化に拍車をかける悪循環を生んだ。これは不動産を担保に取引規模を肥大させたシャドーバンキングの致命傷にもなる。

 成長率の鈍化で中国経済には「2つの罠(わな)」が待ち受ける。一つは、中南米諸国などと同じく、先進国入りする前に経済成長が伸びなくなる「中所得国の罠」に陥る懸念が一段と現実味を帯びることだ。

 さらに、国有企業が中心の体制を保ちながら市場経済化を進める矛盾が、日米欧などの経済システムと摩擦を起こして成長を阻むとの「体制移行の罠」が、リコノミクスが不発の現状で浮き彫りになっている。

 2つの罠に陥る前に構造改革をスピードアップして目に見える形で実施し、内需拡大など従来とは異なる成長パターンに直ちに移行しなければ、「2020年までの名目GDP倍増と住民の個人所得の倍増」計画は絵に描いた餅になる。13億人もの巨大市場をどこまで生かせるか。困難な経済運営のかじ取りが続く。(上海 河崎真澄/SANKEI EXPRESS

 ■中国のGDP 中国は1970年代後半に経済の改革・開放路線に転換して以降、GDP成長率が高まった。2003年から5年連続で成長率が10%台となり、10年にはGDPが日本を上回って米国に次ぐ世界第2位となった。世界経済での存在感の高まりにより、中国の成長率の変化は0.1%単位で注目されている。(共同)

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