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社会
危険ドラッグ 自転車走行でも「免停」 減らぬ事故 法律駆使して乱用者排除
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危険ドラッグを使用した男の車が突っ込み、死傷者を出した事故現場=2014年6月24日、東京都豊島区西池袋(宮川浩和撮影) 危険ドラッグを吸引して自転車を運転した道交法違反罪で略式命令を受けた東京都内の男性が、吸引して車も運転する恐れがあるとして、警視庁が男性の運転免許を停止する方針を固めたことが3日、警視庁関係者への取材で分かった。道交法上、危険ドラッグに絡む自転車の交通違反では免許の取り消しや停止ができないため、将来、車で事故を起こす恐れがある「危険性帯有者」と認定することで免停にする。こうした運用は全国初めてで、他の道府県にも影響を与えそうだ。
起訴状などによると、男性は台東区に住む無職の29歳。9月16日に墨田区錦糸で、危険ドラッグを吸引して自転車を運転したとして、道交法違反(過労運転等)容疑で逮捕され、10月7日に罰金20万円の略式命令を受けて即日納付していた。
警視庁運転免許本部は、男性が所持していた危険ドラッグから意識を混濁させるなど車の運転に影響を及ぼす成分を検出。本人や家族などへの調査から、常習的に危険ドラッグを吸引し、以前にも意識をもうろうとさせていたことを確認した。
男性は車を所有していなかったが、運転免許は所持しており、週末などには近所に住む親の車を借りて頻繁に運転していたことから、運転免許本部は男性が今後、危険ドラッグを吸引して車を運転する可能性が極めて高いと判断した。
だが、道交法上、自転車の交通違反では、車の場合のように、違反点数に応じて免許の取り消しや停止処分にすることができない。
このため、運転免許本部は覚醒剤中毒者など将来事故を起こす恐れがある人物を「危険性帯有者」として免許を最大6カ月停止できる道交法の規定に着目し、適用することを決めた。
11月中旬にも男性から聴聞した上で、東京都公安委員会名で免許を停止する。停止期間は上限の180日間の見込み。
捜査関係者は「危険ドラッグを吸引して自動車を運転する可能性がある以上、物理的に運転させず、交通システムから排除する必要がある」と話している。
≪減らぬ事故 法律駆使して乱用者排除≫
危険ドラッグ乱用者による交通事故を防ぐため、警視庁が、自転車の道交法違反者でも、将来、車で事故を起こす恐れがある場合には運転免許を停止する方針を固めた。6月に東京・池袋で7人が死傷する事故が起きたにもかかわらず、都内の危険ドラッグ絡みの事故は増加。危険ドラッグの成分の“過激化”も進んでいるとみられ、警察当局は法律や条例を駆使して「乱用者の排除」を目指す。
10月27日未明、東京都目黒区の交番前を歩行者のようなスピードで遅く走る乗用車が通った。乗用車はガードレールに衝突。目黒署員が駆けつけたところ、運転していた男の所持品から危険ドラッグが見つかり、男は道交法違反(過労運転等)容疑で現行犯逮捕された。
今年の危険ドラッグによる交通事故は都内だけで24件目。池袋で危険ドラッグを直前に吸引した男が運転する車が暴走し、7人が死傷した事故が起きた6月までは5件だったが、7月以降、急増し、昨年1年間(9件)の3倍に迫っている。
警視庁幹部は「6月から危険ドラッグの取り締まりを庁挙げて強化したが、危険ドラッグの蔓延(まんえん)に追いついていない」と危機感を募らせる。別の幹部も「乱用者はニュースに興味がなく、池袋の事故すら知らない者も多い。危険性や違法性が浸透していない」と指摘する。
危険ドラッグを吸引して自転車を運転し、運転免許を停止される見通しとなった台東区の無職男性が所持していた危険ドラッグは「ハートショット」と呼ばれ、死亡事故が多発している新種だった。
警察庁によると、危険ドラッグによる死者は今年1~9月だけで昨年の8倍超の74人。捜査関係者は「危険ドラッグは以前よりも依存性や毒性が強い製品が増え、他人を巻き込む交通事故を起こす可能性も増している」と指摘する。
警視庁では、危険ドラッグを所持しているだけで、一定の条件を満たせば、車の運転をしていなくても運転免許を最大6カ月間停止する運用を10月から本格的に開始。10月24日には、危険ドラッグを吸引して事故を起こした運転者に危険ドラッグをパイプに詰めて点火して手渡したとして、車の同乗者の運転免許を全国で初めて東京都公安委員会が取り消した。
9月には、徳島県公安委が、危険ドラッグを自宅で使用した県薬物乱用防止条例違反罪で罰金刑を受けた男性を150日間の免許停止処分にしている。
警視庁幹部は「乱用者をなくすには時間がかかるが、まずは交通システムからの排除だ」と強調する。
危険ドラッグ乱用者による事故が後を絶たない背景には、危険ドラッグが簡単に手に入る状況が続いていることがある。だが警察当局や厚生労働省、地元自治体などによる販売店舗の排除は緒に就いたばかりだ。
厚労省は8月に薬事法に基づく検査命令を出し、店頭から薬事法上の指定薬物を疑われる製品を回収。地元自治体なども、危険ドラッグの販売が未承認の医薬品の販売に当たる恐れがあるとして、店頭の製品の回収を進めている。
自治体でも、不動産業者に、賃借人に危険ドラッグを販売することを禁じる条項を盛り込ませたり、指定薬物以外の危険ドラッグも自治体独自で規制する仕組みを導入するなど、法律や条例を駆使した取り締まりが進められている。
都薬務課によると、都内では7月時点で68店あった店舗が10月時点で32店にまで減ったが、閉店を装って電話で個別販売したり、インターネット販売に移ったりする業者もいるという。
「通販業務を再開いたしました」-。ネットには、危険ドラッグ販売再開を告げる広告が出始めている。(SANKEI EXPRESS)