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「死ぬ権利」波紋広げ旅立つ 29歳米女性、予告通り尊厳死

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「死ぬ権利」波紋広げ旅立つ 29歳米女性、予告通り尊厳死

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 米国で、脳腫瘍により余命半年と診断され、「尊厳死」が合法化されているオレゴン州に転居したブリタニー・メイナードさん(29)が、インターネットで予告した通りの1日に医師から処方された薬を服用し死亡した。米メディアが2日、一斉に報じた。彼女はフェイスブックに「愛する家族、友だちよさようなら」などとつづった。生前は「死にたくない」と葛藤も吐露していた。尊厳死を支持する民間団体によると、最期は自宅寝室で夫ら愛する人たちの腕の中で穏やかに亡くなったという。「死ぬ権利」をめぐり彼女が投じた一石は、世界中に大きな波紋を広げている。

 「世界は美しい」

 「この恐ろしい末期の脳腫瘍は私から多くの物を奪いました。このままではさらに多くのものが奪われたでしょう」

 メイナードさんはフェイスブックに最終的な選択の理由をこう記した。そして、「世界は美しいところ。旅はいつも私の最良の教師だった」と、思い出をつづった。教育の修士号を持ち、ネパールの孤児院で勉強を教えるなど、世界中を精力的に旅していたという。

 彼女を支援してきた尊厳死支持団体「思いやりと選択」のバーバラ・クームス・リー代表は「すべての米国人に尊厳死という選択肢をもたらすため、彼女の遺志を継承し続ける」との声明を出した。

 米メディアによると、メイナードさんは2012年9月にカリフォルニア州サンフランシスコでダニエル・ディアスさん(43)と結婚。今年1月に脳腫瘍と診断され、手術を受けたが病状は悪化し4月に余命半年と宣告された。医師から放射線治療を勧められたが拒否。1997年に米国で初めて法的に尊厳死が可能になった隣接するオレゴン州ポートランドに夫婦で転居。10月6日にユーチューブに「11月1日に尊厳死を選ぶ」と予告する動画を投稿し、再生回数が900万件を超えるなど大きな反響を呼んだ。

 10月21日には夫とともに念願だったというグランドキャニオンを訪れ、「息をのむほど美しかった」とつづった。翌朝には「過去最悪の痛み」に襲われたが、その後投稿した動画では「家族や友人となお笑っていられる。まだ『その時』ではないみたい」と語り、延期を示唆していた。最期は致死量を超える鎮痛剤を服用したという。

 ネットで賛否交錯

 彼女の死を受け、ネットではさらに激しい議論が巻き起こっている。「彼女を支持している。みんなも尊厳をもって死ねるようになることを願う」「勇敢な女性だ。あなたと家族にとって容易な選択ではなかったはずだ」。こうした肯定的な書き込みの一方で、「たとえ健康でなくても、自殺を許してはいけない」「臆病者の逃げ方だ。なぜ人生を捨てるのか」と非難する声もある。

 米紙ロサンゼルス・タイムズは社説で「オレゴン州に倣い末期患者が苦痛を伴わずに生を終えることを許可すべきだ」と主張した。

 米国ではオレゴンのほか、ワシントン、モンタナなど計5州で尊厳死を合法化。オレゴンでは昨年末までに750人以上が尊厳死を選んだが、多くは高齢者で35歳未満は6人だけ。欧州ではオランダが2001年に世界で初めて国として合法化し、ベルギー、フランスが続いたが、ドイツは認めていない。日本では法制化されておらず、本人や家族の同意を得て延命装置を止めた医師が殺人容疑で捜査対象となる事件も起きている。

 「死にたくないわ。もしも誰かが魔法の治療法を与えてくれるなら子供を授けてもらえる」

 生前こう語っていたメイナードさんは、答えの出ない問いを投げかけ、旅立った。(SANKEI EXPRESS

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