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進化した「21世紀のピンク・フロイド」 ニック、デヴィッド 新譜を語る
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「21世紀のピンク・フロイド」を作ったというデヴィッド・ギルモア(左)とニック・メイソン=2014年7月1日(Phote:Harry_Borden) ピンク・フロイドの『永遠(TOWA)』は、恐らく再び音楽史の事件になるに違いない。先行音源を聴くと、その研ぎ澄まされた生演奏の輝きは、今まで全く聴いたことのないクールな手ざわりに満ちていた。ジャケットの通り、人間が超時空に立たなければ体験することができないような景観を見せてくれる。
何よりも、ピンク・フロイドの従来のイメージ、特に30センチLPの時代、『おせっかい』のB面いっぱいを使った曲「エコーズ」などをほうふつとさせながら、40年の時間の経過をしっかりと進化につなげていると感じさせるところには脱帽する。
メンバーのニック・メイソンは語る。
「このアルバムは2008年に亡くなったメンバーのリック・ライトへのトリビュートなんだ。このアルバムは、ピンク・フロイド・サウンドの中心で彼がやっていたことや、彼の演奏の多くを確認するいい手段だと思う。セッションを聞き返していると、彼がいかにスペシャルなプレーヤーだったかを痛感したよ」
トリビュートといえばノスタルジックな印象も受けるが、新曲から受ける手応えは、新しい冒険であり、テクノロジーなのである。ニックはさらに補足する。
「『永遠(TOWA)』の始まりは、1994年にリリースされた『対(TSUI)』のセッションで生まれた楽曲にさかのぼるんだ。3人一緒の演奏を20時間分以上聴いて、新作に収録するために取り組む曲を吟味して選んだ。昨年の1年間で新しいパートを加えたり、新たにレコーディングしながら、スタジオのテクノロジーを生かして、21世紀のピンク・フロイドのアルバムを作った。リックが逝ってしまって、もう二度とセッションができなくなってしまった今こそ、僕たちのレパートリーの一部にするのが正しい気がする」
従来のセッションを元にしているこの盤が、21世紀のピンク・フロイドとなったというところが重要だろう。新しいスタジオのテクノロジーを使って、従来のサウンド、特にギターの音色は非常に研ぎ澄まされたものになった。20年前のフレーズを用いることで、それまでの手法の正しさも証明している。そうした過去の産物が未来への出発点になったということだ。
デヴィッド・ギルモアも語る。
「これは、僕とニックとリックの3人がテムズ川に浮かぶハウスボートの“アストリア”(デヴィッド・ギルモア所有のスタジオ)で行った最後のセッションからのものなんだ。リックの独特のキーボードを聴くと、“自分の手にしているものは、失ってしまうまで分からない”ということを、今気づかせてくれる。ポリー・サムソンは、僕たち3人が作る音楽には何かしら言葉で言い表せない魔法のようなものがあるということを表現するために歌詞をつけた。言葉よりも訴えかけてくる、いってみれば“音楽の魔法”の瞬間のようなものを象徴しているんだ」
音楽の魔法は誰にでもいや応なく感じられるはず。そのテンションは、メンバーの死によってもたらされていることがポイントだ。なんともいえない悲しみのようなトーンも感じる。だがそれに負けない生への意志も感じられるのだ。
プロデュースは、デヴィッド・ギルモアの他に、ロキシー・ミュージックのフィル・マンザネラや、ポール・マッカートニーとのユニット、ザ・ファイアーマンで有名なユースらが手がけ、神秘性を増したアートワークのディレクターには、ピンク・フロイドではおなじみのヒプノシスからオーブリー・パウエルが担当。バックアップも完璧である。
人間性の深みとプロデュースの跳躍力が同時に感じられるこの新譜により、ロックの生命力は再び高められた。(アーティスト・作詞家 サエキけんぞう/SANKEI EXPRESS)