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ささやく歌声 ベッドのお供に 高岡早紀 山下洋輔が全面参加のスタンダードカバー
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女優、高岡早紀=2013年12月19日(提供写真) 1988年に加藤和彦プロデュースの「サブリナ」でデビューした高岡早紀は、ベールに包まれたロリータアイドルというイメージだった。88年といえば、おニャン子解散の年。アイドルは曲がり角だったが、そんな世相とは関係なく、超絶したイメージだったのだ。「露出もわざと抑えて、イメージを作り上げていたんです」と高岡は当時をふり返っていう。
ヨーロッパ風の雰囲気をたたえた美少女というコンセプトは、マニアには垂涎(すいぜん)の的だった。80年代アイドルブームが過熱し、バブリーでドメスティックで下世話なアイドルが次第に失速していく中、メディア露出をコントロールするという動き方が可能だったところが高岡の希少性を物語る。
高岡早紀の父親は、ジャズライブハウスとしては老舗である横浜エアジンの創始者、高岡寛治だった。同じくジャズを愛する母親の2人に育てられたという。
「ジャズは子供の頃から子守歌のようでした。家では母がジャズのレコードをかけていました。生活のなかにあったジャズが自分の中で培われていたという感じです」
高岡寛治は、ジャズピアニストの山下洋輔とは親友だったという。そんなこともあり、「いつかジャズを歌うようになるよ」と、山下には子供の頃からいわれてきた。
高岡のアイドル歌手としての活動は、91年までの短い期間だった。今年、23年ぶりに新作アルバム『SINGS -Bedtime Stories-』を10月22日にリリース、コンサートも行う。昨年、主演映画『モンスター』のエンディング曲『君待てども ~I’m waiting for you~』で山下洋輔との共演をしたことがきっかけになった。
「自分の出る映画だから、イメージを壊されたくないって思って。よく映画の内容とあってないエンディング曲とかってあるでしょう? そんな風になると残念だから。自分で歌えば、イメージはピッタリになると思って、スタンダードを選曲したんです」
『君待てども』は戦後間もなく平野愛子がヒットさせ、さらにアメリカ本拠地に活躍した歌手の草分けであるナンシー梅木が英語でカバーした“和製ジャズ”の名曲。高岡によるカバーは日本語と英語のメドレーだが、映画のエンディングにマッチし、動画サイト、ユーチューブでの再生数も14万回を超える反響を呼んだ。その成果を元に、アルバムはさらに発展させ、彼女が幼い頃から親しんできた音楽ジャズ・テイストラブ・ソング集を作ろうということになったという。『胸の振り子』『星影の小径』『アゲイン』といった曲である。分けても『黄昏のビギン』は、その数奇なヒット曲としての運命が佐藤剛著『黄昏のビギン』でも話題になっており、タイムリーな選曲となった。
「え? そうなんですか? 映画のエンディングに合ってるな、と選んで、使われなかった曲です。とても好きなんです」
高岡はジャズ曲については特に詳しいわけでもなく、ジャズを愛する親のセンスが、ひたすら感覚で伝わっている風情だ。
多忙な女優業の合間を縫ったレコーディングは、山下洋輔が全面参加しているほか、ギタリスト鈴木禎久とのセッションなどと、ほぼ一発録り、50年代のジャズボーカル作品のような録音が功を奏した。
「夜寝る前に静かに聴きたいアルバム」というコンセプト。山下洋輔は高岡にメールを送り、「毎晩、寝る前に本当に聴いているよ、素晴らしい」と眼を細めているという。ウィスパーボイスの歌声は、ジャズの大御所のような重さではなく、山下を魅了するような優しく若々しい芳香が魅力なのである。(アーティスト・作詞家 サエキけんぞう/SANKEI EXPRESS)