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バニラエアで行く台湾 格安運賃がブームの追い風
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オープンスポットに駐機している飛行機へタラップを使って搭乗。機体の前での記念撮影もすっかり定番になった=2014年10月19日、千葉県成田市・成田空港(倉谷清文さん撮影) 台湾旅行がブームだそうである。
日本人にとって台湾はもともと最も身近な海外のひとつだし、食べ物がおいしく、親日的で治安も悪くない。そんなことから私は常々、若い女性に「海外へひとり旅に出るならまずは台湾で練習を」とアドバイスしてきた。
昨今のブームを後押ししているのが、格安を武器にファンを集め、国内の空から近隣のアジアへ翼を広げてきたLCC(ローコストキャリア)だ。台湾へは現在、関西と沖縄からピーチ・アビエーションが、成田からはバニラエアとシンガポールのスクートが就航。今回は成田を午前7時25分に発つバニラエアを使って台北を旅してみた。
午前6時50分過ぎに搭乗が始まった。オープンスポットに駐機している飛行機までは、ゲートからバスで移動。そこからタラップを上がって機内へと進む。バスを降りたら、まずは機体を背景に記念撮影というのが、当たり前に見かけるLCCの旅の定番になった。
台北までは通常価格で片道7000円から、キャンペーン価格なら5000円以下で入手できるとあって、学生や若いOLのグループが多い。機内食などの無料サービスはないが、常連客は「運賃に最初から食事代が含まれてしまっている大手と違い、“ほしい人だけ有料でどうぞ”というやり方は理にかなっている」とLCC流に賛同。そこで出費を抑えたぶん、現地でぜいたくに-というのが彼らの旅のスタイルのようだ。
台北・桃園国際空港には定刻の午前10時35分(現地時間)に到着。市内へ移動して路線バスに乗り換えた私たちは、宮崎駿(みやざきはやお)監督の大ヒット長編アニメ映画『千と千尋の神隠し』のモデルにもなったといわれる台湾北部の山間の街・九●(=にんべんに分、きゅうふん)へ向かった。
≪古き良き九ふんの夕景 1泊し堪能≫
九ふんは19世紀末に金鉱が発見され、ゴールドラッシュに沸いた街だ。金鉱が閉鎖されてからは「小香港」と呼ばれた当時のにぎわいは失われたものの、1989年にここを舞台にした映画『非情城市(ひじょうじょうし)』(侯孝賢監督)が上映されると再び脚光を浴び、台湾でも有数の観光名所に。太平洋を見下ろす山の斜面にへばりつくようにして広がるノスタルジックな街並みは、宮崎駿監督の大ヒット長編アニメ映画『千と千尋の神隠し』のモデルではないかともいわれる。
細い路地にみやげ物屋などが並ぶ基山街と、古い茶芸館(中国茶カフェ)が軒をつらねる急な石畳の階段が散策のメーン。外国からの観光客も多く、坂道ですれ違う人々の間にいろいろな国の言葉が飛び交う。私たちが訪れた日はあいにくの雨だったが、傘をさしながらぬれた石畳を踏みしめると、まるで日本の古都を歩いているような不思議な感覚におちいった。
ガイドブックには「台北市内から1時間で行ける日帰りスポット」とある。
「でも、それではもったいないですよ。この街に残る古き良き時代の面影は、観光客が帰路につき始める夕暮れどきに色濃くあらわれますから」
そう話してくれたのは、私たちが宿泊した民宿「九ふん小町」の日本人経営者、高野誠さん(51)だ。7年前に移り住んで日本食の店を始め、以来この町の変遷を見つめてきた。民宿を開いたのは2009年。日本語が流暢(りゅうちょう)な奥さんの秀卿(シュウケイ)さんとともに、日本からの宿泊客も数多く受け入れている。赤い暖簾(のれん)をくぐって格子戸をあけると、出迎えてくれるのは障子や畳をしつらえた純和風の空間だ。バルコニーのある部屋から、晴れた日には東シナ海や基隆山が一望できる。台湾の民宿は素泊まりが基本だが、九ふん小町では朝食(和食)も提供していて、これを目当てに訪れる台湾人ゲストも少なくない。
高野さんは自らが案内役になり、自家用車を使って周辺の見どころを回るオプショナルツアーも実施している。「九ふんの魅力を一人でも多くの人に知ってもらいたい」と、ツアー料金も3時間のコースで一人300台湾ドル(約1100円)程度と破格の設定だ。日帰りではなく1泊したことで、街の周辺にある金鉱の史跡やアニメ『千と千尋の神隠し』のモデルではないかと思われるトンネル、海岸線の奇岩などのスポットにも足を延ばすことができた。(文:作家・航空ジャーナリスト 秋本俊二/撮影:フォトグラファー 倉谷清文/SANKEI EXPRESS)