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【取材最前線】80代の名優にしびれる

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【取材最前線】80代の名優にしびれる

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 11月に80歳を超えた俳優の舞台が2本あり、演劇担当記者の立場を忘れ、一演劇ファンに戻って満喫した。しかも一人芝居と二人芝居。2時間近くもしゃべりっぱなしの新作、といえばそのすごさが分かるだろう。

 1本目は仲代(なかだい)達矢さん(81)の一人芝居「バリモア」(丹野郁弓(たんの・いくみ)訳・演出)だ。映画「グランドホテル」(1932年)などで知られる米名優、ジョン・バリモアの晩年を描いたウィリアム・ルースの作品。物語は、バリモアが死の1カ月前、ニューヨークの劇場でリハーサルに臨むところから始まる。あふれ出るのは、俳優全盛期に主演した「リチャード3世」や「ハムレット」のせりふ。没落したアル中のシェークスピア役者が再起をかける。

 「僕も『リチャード3世』や『ハムレット』などを演じた。演じていて(自分が)バリモアなのか、仲代なのか、役なのか、分からなくなる」

 仲代さんが15年間、温め続けていた舞台。事前取材で「62年役者をやってきて、一番難しい。最後の冒険」と初の一人芝居を語っていた。

 せりふを筆書きして壁中にはり付け、記憶力の低下と必死に闘っていた。「若いころの20倍、30倍も苦労する」とため息をつきながら、好きな戯曲に全身全霊で取り組む緊張感と充実感がみなぎっていた。

 シアタートラム(東京・世田谷)の客席は全公演完売。酒をカパカパあおりながら、過去の栄光に浸る困ったじいさんは、仲代さんにピッタリで実にチャーミングだった。

 もう一本は、渡辺美佐子さん(82)と平幹二朗(ひら・みきじろう)さん(80)の2人芝居「黄昏にロマンス」(常田景子訳、西川信廣演出)。露作家アレクセイ・アルブーゾフのコメディーで、ともに戦争で最愛の人を亡くした医師(平)と、患者(渡辺)が、徐々に心寄せ合うさまを描いた舞台だ。

 若いころの恋愛と違い、孤独な人間同士が肩を寄せ合うようにひかれ合う。不器用に踊る場面など、涙がこぼれた。2人にも事前取材したが、台詞はもちろん、ダンスや歌に苦労しながら「ウェルメードな芝居なんですよ」と戯曲への愛情を笑顔で語っていた。好きなことを続けながら、挑戦をやめない名優たち。その格好良さにしびれた。(飯塚友子/SANKEI EXPRESS

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