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新旧ジャズを結ぶ鍵となる オーティス・ブラウン3世
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音楽アーティスト、オーティス・ブラウン3世(提供写真) ロバート・グラスパーがグラミー賞を受賞して以来、新世代によるジャズに注目が集まっている。これまでに紹介したデリック・ホッジをはじめ、グレゴリー・ポーター、エスペランサ・スポルディング、ホセ・ジェイムズといったミュージシャンたちは、古典的な演奏を繰り返すのではなく、ヒップホップやR&Bの要素をレコーディングやライブに持ち込み、時代に即したジャズを作り上げたのだ。このことはジャズのポピュラリティーを拡張したとも言えるし、極端な言い方をすればジャズをポップ・ミュージックとして復権させたとも言えるだろう。1950~60年代にかけてジャズが全盛だった頃、日本にもファンキー・ジャズ・ブームが巻き起こり、ドラマーのアート・ブレイキーはTV番組にも出演し、来日時には40公演以上を行ったと言われている。
アート・ブレイキーと同じドラマーで、新世代ジャズのリーダー的存在でもあるロバート・グラスパーも参加するオーティス・ブラウン3世のデビューアルバム『THE THOUGHT OF YOU』が発売された。
エスペランサ・スポルディングのライブでドラムを担当し、来日経験もあるオーティス・ブラウン3世は、オリバー・レイクといった大御所との共演も果たしている。ロバート・グラスパーのみならず、やはり新世代ジャズの注目株でハービー・ハンコックやウェイン・ショーターといった大御所からも絶賛されるグレッチェン・パーラト、ヒップホップ/R&B界の実力派、ビラルらをフィーチャーした『THE THOUGHT OF YOU』は豪華ゲストで話題沸騰中だが、僕はその音楽性を高く評価している。
ヒップホップやR&Bを理解した生演奏はジャズの強力な武器になり得るが、コンテンポラリーなリズムの導入は、時にジャズ至上主義者の関心を失ってしまう。新世代ジャズが人気を獲得すればするほど、「あれはジャズではない」という冷ややかな見解がミュージシャンに投げかけられるのだ。個人的にはジャズは即興芸術であると同時に時代とともに形を変えるものだと考えているが、50~60年代のモダン・ジャズこそが“ジャズ”と規定する風潮は、ジャズ至上主義者のみならず、一般人の間にも根強い。好奇心旺盛で頭の柔軟なリスナーは、新世代ジャズを歓迎しているが、まだまだ一部の動きにすぎない。
しかし、このオーティス・ブラウン3世はオーセンティックなジャズ・リスナーにも訴求するスタイルの中に、ひそかに(そして過激に)現代の音楽の要素を混入させている。一聴すると50~60年代ジャズに通じるスタイルを持ちながら、随所にヒップホップやドラムン・ベースといったダンスミュージックの影響をちりばめ、巧妙にジャズの現代化を実現しているのだ。R&B的にドラムミングをするのではなく、高速ジャズにR&Bシンガーを起用するというアイデアも面白い。これは、大衆化というプロセスを経て、ジャズを復活させた新世代が再び芸術化を志向する発端なのかもしれない。
この作品が、グラミー受賞前に、セカンド・アルバム『IN MY ELEMENT』で同様のアプローチを試みていたロバート・グラスパーを触発するのではないかと期待している。ジャズ至上主義をうならせた上で、ポップスのリスナーやDJをうならせることは不可能ではないはずだ。かつてのアート・ブレイキーのように。ロバートやオーティスが日本のお茶の間で目撃される日が来るとは思わないが、新旧のジャズ・リスナーを結びつける鍵を、彼らが握っているように思う。(クリエイティブ・ディレクター/DJ 沖野修也/SANKEI EXPRESS)