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【野口裕之の軍事情勢】中国の「地図戦」に対抗せよ
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中国共産党の青年組織である共産主義青年団系の週刊紙「重慶青年報」(2014年7月3日付、電子版)に掲載された日本地図。「日本は再び戦争をしたがっている」との表題を付け、キノコ雲のイラストを広島と長崎の位置に書き込み、日本を威嚇した(共同) 地図を買う中国人は外交官か工作員かもしれない。中国は地図を「武器」に《地図戦》をわが国などに仕掛けている。目的は、沖縄県石垣市の尖閣諸島や他国と領有権を争う南シナ海の支配。海外での古地図発掘の他、中国内外で日本や係争国の領有を証明してしまう新旧地図の焚書も密かに行われている。中国が日本を筆頭に、敵対国を▽世論戦▽心理戦▽法律戦を駆使した《三戦》で攻撃している実態は度々報じたが、1つ増え《四戦》になったとの分析も在る。地図戦は三戦支援の補助戦略の側面が強いが、どちらにせよ三戦に加え地図戦にも対抗しなければならなくなった。
法律戦とは国際の法や慣習を極大・独善解釈しながら領有権などを“担保”する国内法を乱発。一方で敵対国国内法の限界・欠陥・不備を悪用し既成事実を積み上げていく。国際社会に中国共産党の合法性と敵対国の違法性を示す謀略といえる。法的根拠を著しく欠くものの、領有権係争海域の地図をあしらう旅券発行(2012年)などは、受け入れ国が入国印を押せば領有権を認めたと勝手に解釈され、厳重な警戒が必要となる。
南シナ海の9割を、U字型に配した9本の破線で囲み「中国の主権、主権的権利、管轄権が及ぶ範囲」と宣言した《九段線》も法律戦の先兵。大陸に在った中華民国が第二次世界大戦後の1947年に創った《十一段線》が原型だ。国共内戦(1946~50年)勝利目前に建国(49年)した中国も十一段線を継承。後に、社会主義系の「北ベトナム勢力」との関係を重視し海南島とトンキン湾の間の2破線を消す。これで《九段線》となり、内側の島嶼・岩礁や海底・水産資源を強奪してきた。今のところ実線=国境線を引く戦争行為は控えるが「漢代(前206~220年)以降、徐々に管理を始めた」(中国軍副総参謀長)と珍説は譲らない。米紙は4月、冷笑に批判を込めた。
《地図作製者は規模と確度を尊ぶが、九段線は正確な位置を示していない。マジックペンで書き足されたように見える》
新たに許可された地図にも健筆が振るわれ、台湾東岸に破線が1本加わり《十段線》へと進化を遂げた。台湾は中国と同色で塗られ、枠で囲みスミで小さく別掲載だった南シナ海も同じ縮尺で地図本体に組み込まれた。
知らぬ間に増える破線は「列強に奪われし清代(1636~1912年)の版図」とか。法律戦というより「呆律戦」と地図戦のコラボと呼ぶ方がしっくりくるが「中華民族の偉大な復興」を実証する勢力圏を示す戦線であり、呆れてよい情勢にはない。
地図戦は世論戦とも連携する。世論戦とは、国内外の世論を金品供与や洗脳で工作し、反共産党政策を抑止し、支持を浸透させる謀略。日本や欧米で「従軍慰安婦の強制連行」「●(=鯖の魚が立)國神社=軍国主義の象徴」を捏造・流布し、“尖閣問題”など日本外交の弱体化を謀る大規模工作が該当する。地図戦との絡みでいえば、前述の旅券発行や十段線地図の国内販売は人民の愛国心高揚を狙っている。
反撃すべきであるが、何でもアリの独裁国家と同じ土俵に立つ民主国家は苦戦を強いられる。習近平国家主席(61)はドイツ訪問中の3月、アンゲラ・メルケル首相(60)に尖閣も南シナ海の係争海域もほぼ抜け落ちた、中国が嫌がる地図を贈られた。フランスの学者が清代の1735年に作った地図で独出版社の複製だった。ところが中国では、英地図出版社が1844年に手掛けた「清代絶頂期の地図」と故意に「誤報」した。
誤報の片棒を担がされた1844年製地図が完成する4年前、ベルギーに書店アーケード《ギャラリー・ボルティエ》がお目見え。内一軒で2012年、駐ベルギー中国大使が古地図を入手した。仏軍大佐らが1832年に書いた地図で《釣魚嶼(尖閣の明~清代呼称)と明記してある=大使寄稿のベルギー紙》そうだ。競うように1週間後、駐仏大使も仏国立図書館所蔵の1772年/78年/1817年作の地図を証拠に挙げ仏紙上で主張した。
《開運!なんでも鑑定団》に依頼せずとも、法律戦は完全に破綻している。ただし、世論戦では敗北を喫した。
なぜか-
大使の寄稿にも散見されたが、中国共産党の編み出した“釣魚領有”に関する法律戦の脚本は以下のごとき構成。
【連合国側の戦後処理方針を示した《カイロ宣言=1943年》や《ポツダム宣言=45年》を日本が受諾した結果、釣魚島は台湾の付属島嶼として、台湾とともに返還された。だが、中国抜きで結ばれた《サンフランシスコ講和条約=発効52年》で米国施政下となった南西諸島に尖閣は含まれていない。53年になって米政府は《琉球諸島の地理的限度》を発表。米国管轄範囲を無断で拡大した。沖縄返還で釣魚が返還対象に組み込まれたのは無断拡大の産物に過ぎぬ】
デキの悪い筋書故、怪しげな骨董品を持ち出し、国際司法機関にも訴えられない。
そも戦後の日本領土確定は講和条約でなされ、カイロ/ポツダム宣言に最終的な法的権能はない。確かに講和条約により、日本が日清戦争(1894~95年)に勝ち、中国から割譲した台湾+澎湖諸島領有権を敗戦で放棄させられた。けれども、尖閣は台湾+澎湖諸島に含まれない。尖閣は講和条約に基づき、南西諸島の一部として米国が施政権を現に行使。沖縄返還時、返還区域に明示された歴史的事実でも、逆に裏付けられた。条約締結にあたり、中国/中華民国や敵対した国々はいずれも異議を唱えていない。中国がわめき始めたのは1968年、国連機関の調査で東シナ海に石油が埋蔵されている可能性が発覚して後。
しかし、以上を主要国に平易に説明しても国民は地元紙の、しかも大使による偽証を信じる。世論戦は懐柔に向けた心理戦の合力で戦力を増すのだ。
もっとも、心理戦の正体は凶暴だ。共産党系週刊紙に7月、心理戦とリンクした常軌を逸した地図が載った。集団的自衛権行使に道を開いた《安倍晋三政権が戦争をしたがっている》として、キノコ雲のイラストを広島・長崎両県上空に挿入。《友好的過ぎた。行動上、寛容過ぎた》と威嚇した。
四戦で衰弱させた国家・国民に対するトドメの五戦目は何か。実戦…。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS)