SankeiBiz for mobile

シンガポール人の「生の姿」を 映画「イロイロ ぬくもりの記憶」 アンソニー・チェン監督インタビュー

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

シンガポール人の「生の姿」を 映画「イロイロ ぬくもりの記憶」 アンソニー・チェン監督インタビュー

更新

「来年2月からは英国で英語による時代劇の撮影に入ります」と語るアンソニー・チェン監督=2014年10月6日(高橋天地撮影)  監督、脚本、制作を一手に担った念願の長編映画デビュー作「イロイロ ぬくもりの記憶」が、思いがけず昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)に輝いた。一夜にして世界にその名を知らしめたシンガポールの新鋭、アンソニー・チェン監督(30)が描いたのは、複数の民族で構成される母国のとある中流家庭の少年とフィリピン人メイドの心温まる交流で、題材はチェン監督自身の少年時代の体験をベースとしている。「僕はごく普通の家族の姿を映し出した映画が好きで、日本の小津安二郎監督の映画もよく見ました。『イロイロ』では登場人物の表情や家の中の様子を緻密(ちみつ)に映像化したつもりです。作品を通してシンガポール人の生の姿を知ってもらえればうれしいですね」。チェン監督は声を弾ませた。

 自身のメイド、モデルに

 1997年、共働きの両親と高層マンションに住む一人っ子のジャールー(コー・ジャールー)は、ヤンチャが過ぎて学校ではすっかり問題児扱いされていた。

 ある日、フィリピン人のメイド、テレサ(アンジェリ・バヤニ)が住み込みで働くことになった。ジャールーは最初こそなかなかテレサに心を開かなかったが、次第にかけがえのない存在となっていく。ジャールーの父親(チェン・ティエンウェン)といえば、アジア通貨危機のあおりを受けてリストラに遭い、母親(ヤオ・ヤンヤン)のイライラは募るばかり。すっかり息子の心をつかんだテレサには嫉妬心に駆られ…。

 チェン監督が実在のフィリピン人メイドをモデルとし、主演に据えたのは、幼少時に自分を育ててくれた彼女が両親以上に特別な存在となっていたからだ。「彼女の名前はテレサといい、僕はテレサおばさんと呼んでいました。4歳から8年間も一緒に過ごしました。子供時代を思いだすと、彼女との思い出ばかり。映画化を決めたとき、とても大切な人だったことに改めて気づいたのです」

 カメラドールを受賞後、すぐさまフィリピンのさまざまな報道機関が「メイドのモデルは誰か」と関心を寄せ、チェン監督に連絡先を尋ねてきた。すでにフィリピンに帰国していた彼女とは16年間も音信不通となっていた。「報道機関には彼女と一緒に写った写真を2枚託し、彼女の名前と、イロイロ州出身であることだけを伝えました」。2週間後、奇跡的に居所が判明し、チェン監督は昨年8月、イロイロ州で再会、シンガポールプレミアに招待した。「この映画には、大いに笑わせてもらったし、泣かされもしたわ」。彼女はチェン監督にうれしそうに感想を伝えたという。12月13日から東京・K’s cinemaほかで順次公開。(高橋天地(たかくに)、写真も/SANKEI EXPRESS

 ■ANTHONY CHEN 1984年4月18日、シンガポール生まれ。義安理工学院で映画を学ぶ。その後、英国の国立テレビ学校で映画技術に磨きをかけ、2010年に卒業。その間に多くの短編を制作し、カンヌやベルリン国際映画祭に出品した。13年、長編デビュー作「イロイロ ぬくもりの記憶」はカンヌでカメラドールを受賞したほか、台湾金馬奨でも作品賞含む4部門を受賞。

ランキング